• みずき書林

『ブレッドウィナー』とナウシカとスピッツ


前回アップした感想と一緒に書いてしまうと話がブレるので、分けて書いておきます。


『ブレッドウィナー』を観ていて、思い出した作品がふたつあります。


ひとつめは『風の谷のナウシカ』です。

『ブレッドウィナー』については、Twitterや新聞記事などでは、高畑勲監督との親和性が多く語られています。制作サイドもそのように言及していますし、公式サイトのコメントにも『火垂るの墓』が挙げられています。

暴力の気配が色濃い世界で、子どもたちが共同体の担い手になろうとするという作品のテーマ的には、『火垂るの墓』と並べて論じるのは、王道ともいえるでしょう。

『火垂るの墓』のキャッチコピーは「4歳と14歳で生きようと思った」

です。

いっぽう『ブレッドウィナー』には「私は、生きる」とあり、また「パヴァーナ11歳。髪を切り“少年”になった少女の、勇気の物語」とあります。


もちろん、高畑作品との親和性は高いですし、その方向から論じたものはたくさんあると思います。

でも僕は作品を観ながら、ナウシカを思い出していました。

風の谷も、強国の戦争に巻き込まれていく辺境の“弱国”です。

ナウシカはまだ少女にもかかわらず、死亡した父親の代わりに谷を導く、ブレッドウィナーにならなければなりません。

物語の中盤で、ナウシカは船から脱出するために異国の服に着替え、その服は蟲の体液で青く染まります。このことは、パヴァーナが髪を切り名前を変え、男の子に変身するのと対応するようです。

そして谷には、ずっと語り継がれていた物語があり、ナウシカはそれを身をもって体現する語り手にもなります。彼女は、物語を成就させることで、文字通り、虫たちの怒りをなだめます。


僕はこの手のテキストを書くときに、公式サイトくらいはチェックしますが、それ以外の検索はまったくしないので、すでに誰かが言及しているかは知らないで書いていますが、ナウシカとの親和性というのも、『火垂るの墓』に劣らず強いのではないかと感じました。



もうひとつの作品は、スピッツの「愛のことば」という曲です。

これは完全に偶然だと思いますが、この歌詞がまるで『ブレッドウィナー』の世界を描いているようだったのは意外でした。

この曲のリリースは1995年。公式サイトによると原作者のデボラ・エリスは1997年と1999年に取材してこの本を書いたということなので、草野さんが先です。

草野マサムネがどういう意図で作詞したのかはまったく知りませんが、ラブソングが多い彼にしては、珍しくなにがしかの社会的・政治的な視点をもった歌詞です。とはいえ、『ブレッドウィナー』はもちろん、アフガニスタンのことが念頭にあったとは思えません。

しかし、あまりにも世界観が似ているような気がするのです。



長くなるので歌詞は引用しませんが、


 限りある未来を絞る取る日々から

 抜け出そうと誘った 君の眼に映る海


という冒頭の歌詞からもう、まるで映画を観て作ったかのようです。

それが具体的に何かはわかりませんが、おそらく、1995年当時に起こっていた紛争や内戦を題材にして作ったのだと思います。


この曲は好きな曲ですっと聴いていたのですが、そういう曲が今もほとんど違和感なく、アフガニスタンを描いた作品とつながってくることは、個人的にとても興味深い発見でした。



最新記事

すべて表示

ハイブリッド授業

オンライン授業にもやっと慣れてきたと思ったら。 10月からはハイブリッドでやるよーにとお達しが来た。 まあ話す内容が大きく変わるわけではないし、こういうのは一回やって慣れてしまえばどうということはないのだけど。 オンラインで見ている学生と、教室のスクリーンで見ている学生に、うまく同じ画像をシェアできるのか。 音声はマイクを通してハウリングしないのか。 対面とオンラインで、対話がうまくできるのか。

駆け込み訴え

ここのところなんやかやと小忙しく、ブログ更新が滞りがち。 昨日は上野で人と会っていたのです。 久しぶりに人数も多かったとはいえ、ちょっと飲みすぎでは? 2合徳利を何本空けたやら。 帰り道ずっと「わたしはユダ。イスカリオテのユダ。げへへ」と呟きながら歩き、家に帰ってからもずっと言ってた。 ちょっと酔ってたと思われる。 今日になっても、若干の酒気とともに、太宰をいくつか読み直してみようかな、という気分

文字を読みまくる週末

世間は4連休らしいが、関係なし。 次の本の最後を飾る、3万字にも及ぶ力作の終章をチェック。 戦争体験の継承、トラウマの感染、歴史実践の可能性について。 先生の胸を借りるつもりで、思うところを長文のメールに書いてお送りする。 ここのところ集中的にやりとりしている原稿。 1年前にハノイで行った美術/工芸家の取材を元にしたテキスト。 ver.7までやりとりして、ようやく完成が見えつつある。 次のZINE

© 2018 by Mizuki Shorin Co., Ltd.