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『櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展』(下)

執筆者の写真: みずき書林みずき書林

小林秀雄に「モーツァルトの悲しみは疾走する。涙は追いつけない」という、わかったようなわからんような有名な言葉があります。

賛否両論という言葉がありますが、これらの作品は実に疾走していて、賛も否も論も溶解させるようです。脳は追いつけない。

ただ脳がぐらぐら揺れます。



他者からの批評や評価(ときには非難や嫌悪)にぜったいにぜったいに動かされないこと。

何があろうとも(たとえ何があろうとも)、自分以外の声によって自分を変えないこと。


それがどれだけ難しいことかは、ほとんどの人が生活の場において実感していると思います。炎上したからtweetを削除したり、会議で否定されたから企画書を書き換えたり、少数派になりそうだから発言を控えたり。多くの人はそんなふうに暮らしています。

でもこの人たちは、たぶんそういうことはしない。

譲れないことはぜったい譲らない。

もしかしたら、それがアウトサイダーアートの定義かもしれません。

それは言い過ぎとしても、たぶんアウトサイダーの定義ではありますね。


そう考えてみれば、高い評価を得ていて商業ベースに乗っているオーヴァーグラウンドの作家にも、アウトサイダーアーティストはたくさんいます(たとえば草間彌生はどうか。種田山頭火は。山下清は。つげ義春は。ゴッホは。初期のジャズシーンはアウトサイダー的な表現と人物の巣窟みたいなものです。ちりめんジャコメッティとダリのロブスター電話は、いったい何が違うのか)。


そしてたぶん、我々とアウトサイダーアートの作家たちを隔てる壁も、実は思っているよりはずっと薄いはずです。

みんなどこかに、アウトサイダー的な尖った心を持っているように思います。小さすぎたり、もっと大きくて柔らかい心にくるまれていたりで、こんなふうに外に出せる人は少ないけれど。

こんなふうに生きてみたい。でもそれは難しい。

こんなふうには生きたくない。嫌だ。でも。ちょっと。すごく気になる。

そんなことをぐるぐると考え、脳をぐらぐらと揺らしながら観ました。




この日は、午後に夢の島の第五福竜丸展示館に行き、その足でこの展覧会を観にいったのでした。

だからなおのこと、脳が揺れました。

ありきたりな書き方ですが、人の一生は、とても不思議です。


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