ど~しても気になってしかたがないので(笑)、観てきました。
『ドラゴンクエスト Your Story』。
ぼくはこれ、アリですね。
けっこう面白かった。
終わり方がこんなじゃなければ、好事家の間でメインの議論になっていたであろうブオーンの扱いや、婚約解消のためのフローラの行動など、なかなか楽しめました。
もちろん、最後までふつうに描いてほしかった、という思いはあります。
例の最後のとんでもないどんでん返しについて、ウェブ記事を読んで事前に知っていたのでダメージが少なかった。ということもあったと思います。たしかに、もし何も知らずに観にいってたら、げきおこしていた可能性は高い。
以下、盛大にネタバレ含みます。
問題のラストの仕掛けが賛否両論なのは、仕掛けそのものというより、そこで登場する大魔王≒ウイルスの態度が良くないからでは(笑)。
すなおに最後まで描くのではなく、メタ的な構造になったのは、昨今の趨勢としては致し方ないかと。制作者サイドがこういうふうなツイストを加えたくなる気持ちは、とてもよくわかる。
ウェブ、オンラインゲーム、SNS、VR、AR、いわゆるセカイ系、エトセトラエトセトラ。『ドラクエⅤ』発表以降に登場した数々のエポックを経て、クラシックでクローズドなゲームだった『Ⅴ』を映画化しようというときに、ふつーにストーリーをなぞる以上の何かが必要だと制作サイドが感じたのは、当然だと思います。
そもそもゲーム原作というメディアミックス(という言い方すら、最近はいちいち言う必要のないことですね)的な作品だし、RPGというゲームが、その名のとおりユーザーが「役割を演じ」て感情移入するメタ的なものである以上、主人公=観客というメタ構造に注目して映画を作るのは、クリエイターとしては慧眼というべきでしょう。
「悪が支配する世界を作り出すのだ。ふははは」的な、善悪二項対立的なラスボスが、いまやまったく通用しないバカバカしい思想にすぎないことも、冷戦崩壊などという古い話を持ち出すまでもなく、近年の為政者たちを見れば、理の当然です。
ただね。
「なにもかも空しい。虚無だ」的な雰囲気満載のバーチャル・ボスが発する一番重要なセリフが「大人になれ」なのよ。原文ママで。
白い能面みたいな顔におっかない目、胴体はポリゴン風。エヴァ的使徒やジブリのカオナシを祖先に持つことを想起させる、いかにも現代アニメ風のラスボスから「大人になれ」と言われちゃう(笑)。
このセリフの前後で、主人公リュカとゲームプレイヤー=映画の観客は、うまいことを自己同一化させられるような展開になっています。つまり、「大人になれ」は、ゲームをやって映画を楽しみにして劇場に来た、全プレイヤーと全観客にむけて刺さることばになっているわけです。
ここまでは制作者の思惑通りでしょう。
(実際このセリフが吐かれた瞬間、僕の隣の方は、自嘲交じりの盛大な苦笑をしていました)
しかし問題は、それに対する有効なカウンターが決まっていないことです。
たしかに、主人公は「この物語はほんとうなんだ」「ここで出会ったのは、大切な仲間なんだ」「これは大事な出来事なんだ」といったことを繰り返し主張し、その結果、ラスボスに勝利し、大団円を迎えます。
でも、ラスボスにいわれた「大人になれ」以上にインプレッシブなセリフは、残念ながら発していないようです。制作サイドとしては、ここが計算ミスのような気がしました。
好きな子に「お前のことなんか好きじゃねえし」と言っちゃったけど、そのときに表情や声の出し方をミスってわりと本気でうんざり感漂っちゃってる、という感じ。
いったんそうなると、そのあとにどんなに「仲間ってよいよね」「この世界は素晴らしい」「ほんとは好きだから」と言いつくろってフォローしてみても、もう嘘くさい。一回本気で抱いた「嫌われたかも」という感情は、もう拭いきれません。
よって、観客によっては、ゲームや映画を否定されたことに――とくにいま現在、劇場に来てお金を払ってこの映画を観ている自分自身を、なぜか制作サイドから否定されたことに、不快感を感じて、その不愉快な感じをぬぐえないままにエンディングを迎えてしまう人もいると思います。
簡単にいえば、
こっちは愛着もって金払って見に来てんのにディスられるのかよ。金返せ。
という感覚ですね。
いったんこう思ってしまうと、「Your Story」というサブタイトルも「これ、大人になり切れてないお前の件な」と揶揄されているようにすら読めてしまう(笑)。
もちろん、制作者の意図は、ゲームやアニメといったエンタメを、文学や映画と同じようなオーヴァーグラウンドの文化として、人生に資するものとして肯定しようとする、真逆のものです。
でも、「大人になれ」よりももっと強いセリフが、たったひとつないばかりに、人によってはその意図が伝わりきらない場合があるような気がします。
要するにこれ、「あんたゲームばっかりして! いつまでやってんの!! 宿題したの!!! まったく子どもなんだから!!!!」というセリフに、莫大な制作費と労力をかけて反論しようとする。という映画です(笑)。
その反論が、びしっと決まらなかったという憾みはあります。
この全能の神みたいな不気味で虚無的なラスボスを、もういっそエプロンつけて掃除機かなんか持ったオカンみたいなビジュアルにしておけばよかったのに。と思います。
そしたらあの頃、オカンに対して「違うもん! ゲーム大事だもん!」としか言えず、なかなか有効な反論ができなかったシチュエーションすら、あるあるネタにできたかもしれません(笑)。
いやしかし、言われるほど悪い映画じゃないよ。
終った直後に、隣の人も「なんだ、普通にいい映画じゃん」って言ってたし(笑)。
以上、数限りなく『Ⅴ』をプレイし、30超えてからはぐメタを3匹仲間にしたこともある、大人になりきっていない者の感想でした。
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