先だっても少しだけ紹介しましたが、このたび従兄弟の小説が発売されることになりました。
僕の従兄弟は、約10年前にギラン・バレー症候群という難病にかかり、2年間の入院を余儀なくされました。
発病率は10万人にひとり程度。
従兄弟はかなりの重症で、全身の筋肉が麻痺し、自力呼吸もできず人工呼吸器で生きていました。
動かせるのはわずかに両目のまぶただけ、という状況をくぐり抜けています。
いまは回復し、彼はその体験を『まっすぐな遠まわり』と題した小説にしました。
このたびその作品が、文芸社と毎日新聞社が共催している「人生十人十色大賞」で長編部門の最優秀賞を受賞し、単行本化が決まりました。
岡田瑳久(おかだ・さく)というのはペンネームなのですが、あらためて心よりおめでとう!
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さて、一歳違いの従兄弟同士として、実は僕もこの作品にはいささかの関わりがあります。
1.まず、本作品には岡田蓮太郎なる人物が登場し、主人公の瑳久に手紙を書きます。この人物および手紙は、入院中に実際に僕が彼に書いた手紙がベースになっています。
2.次に、僕は応募前の作品を何度も読む機会をもらっています。そのたびにコメントをして、いわば僕の職業スキルをフル稼働させて、できる限りの意見交換を行いました。
3.最後に。受賞と単行本化を知ったのは、僕が大腸を半分切除した3日目くらいのことでした。僕は病床から瑳久氏に電話をかけ、笑うとお腹が痛いのに、でも大いに笑いあったのでした。
正直に書くと、彼がギラン・バレー症候群を発症して何年も寝たきりになっていたときに、もう助からないんじゃないかと思ったことも何度もありました。
きっと本人も家族も、そのような絶望感を何度も繰り返し感じていたと思います。
そしてその闘病体験をつづった小説が評価を得たときには、今度は僕が倒れていました。いま僕はかなり厄介な病気と向きあう羽目になっています。
人生は回り持ちです。
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上記の1の手紙のなかで、僕は彼のことを「日なたを歩く人」と表現しています。
この部分は創作ではなく、実際に彼に宛てた手紙のなかで、岡田林太郎が書いたことです。
実際に彼は中学だか高校だか、もしかしたらその両方で生徒会長を務めて、バスケ部で、優秀な成績で大学に入学し(在学中は飛び級を勧められたとか)、難病をくぐり抜けて小説を書き、要するに何かと眩しいような男なのです。
たいして優秀でもなく、根が暗く、いつも道の端をうつむき気味に歩いているような僕には、彼はいつも「日なたを歩く人」と見えていました。
でもここ数カ月、もしかしたら僕自身も、彼と同じように日なたを歩けているのかもしれないと感じています。
この数カ月は、かなりヘヴィな時期だったにもかかわらずそう感じるのは、不思議なものです。
彼の本作りにささやかながら関わり、お互い経験している病は違えど、その時々の感情を素直に語り合う経験を経て、僕も彼の横で日なたを歩けている気がしています。
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作品の紹介、購入は文芸社のウェブサイトから。
読みやすく、印象的なエピソードがたくさん詰まった作品です。
個人的には、とりわけ比喩表現の巧みさに舌を巻きました。
ぜひご一読いただければ幸いです。
そして彼の作ったサイト「ヒカリサスミチ」もぜひご覧いただければ。
僕は最近あらためてこのサイト内の「心の支え」のページを見て、強く惹かれるものがありました。
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