3冊目の刊行物。
奥付日は7月20日。
ここには、本文図版200点に加え、「はじめに」やコラムなどに使用した45点の、計245点の図版が収められています。その多くは、今回初公開となるものです。
掲載図版の大半となる219点は、「東方社コレクション」「同Ⅱ」の約2万点のなかから選ばれています。
「東方社コレクション」と「同Ⅱ」の来歴については本書「はじめに」に詳述されていますが、敗戦時の混乱を乗り越えて当時の社屋跡のビルに残されていたネガ約1万7500コマが「東方社コレクション」、そしてその研究過程で寄贈された、林重男氏撮影のものを中心にした9700コマが「同Ⅱ」です。
それらから、東方社時代のものを集めたものが、2万点ありました。
この本を作るにあたってなにより僥倖だったのは、これらがすでにデジタル化されていたことでした。
もしデジタル化の作業が未完であれば、ネガを一枚ずつチェックして、さらにそれをスキャンするところからスタートしなければなりませんでした。
しかし先生方の尽力で、幸いにもデジタルデータはひととおりそろっていました。
本書のデータには、NHKが製作したものと、度重なる共同研究の過程で製作されたものとが使用されています。
まずは井上先生とふたりで、この膨大な写真を通覧していき、掲載する200枚を絞っていく作業をしました。
時間はかかりましたが、これは実に興味深くまた勉強になる作業でした。
専門家である井上先生に、マンツーマンで解説をうかがいながら写真選定をするという贅沢な時間は、編集作業の醍醐味のひとつでした。
そして写真を選び終わったら、テキストの執筆です。
ご覧になっていただければわかるとおり、写真だけではなくそれに対するテキストやキャプションも充実しています。このテキストも、出来たところから読ませていただき、文字量の配分や細かい点などについて話し合いを重ねました。
そうして出来上がった写真と原稿をデザイナーに入稿したのが、今年の3月頃でした。
そこから3度ばかりの校正を経て(原稿段階でかなり練っていたはずでしたが、それでも実際にレイアウトしてみると超えるべき課題は次々と起こるもので、デザインを担当くださった志岐デザインの皆様には多大なご面倒をおかけしました……)、本は完成しました。
出来上がってみれば、写真のレイアウトといい総ページ数といい、ほぼ当初の設計図どおりのかたちに仕上げることができました。
B5判で本文はダブルトーン。
写真は細部まで見られるように、可能な限り大きくレイアウトされています。
『民族曼陀羅 中國大陸』の著者である写真家の小松健一さんには、書籍内に写っている少数民族について問い合わせなどしていたのですが、完成したときに写真の色味とレイアウトを評価してくださったのが嬉しかったです。写真のプロにそう言ってもらえるとは、ありがたいことです。
なお、一部はカラーで刷っています。
というのは、当時の日本ではモノクロ写真が主流でしたが、ごくわずかな数だけですがカラーフィルムで撮影された写真があったからです。
本書ではタイの街頭ポスター展、中国北京の天壇祈念堂前(ともに1944年)の2枚がカラーで撮影されています。
こういった写真の色やレイアウトに関わる部分は、志岐デザインさんのお力と印刷所の努力に依るところが大きいです。
(余談ですが、東京大学の渡邊英徳先生が、古いモノクロ写真をカラーにするプロジェクトをしていて、Twitter上に紹介しています。当時を身近に感じられ、歴史が〈昨日のことのように〉接近してくる感覚を覚える興味深いお仕事ですが、本書に収めたカラー写真を見ても、色がつくだけでこれほど想像力の飛躍に役立つものかと驚かされます)
さて。この記事「みずき書林の刊行物」では、あくまで出版にまつわるバックヤードやこぼれ話的な話題に絞りたいと思っています。
本の内容について書き始めたら、延々と長くなってしまいますから。
でも、一点だけ。
上述の通り、本書の大半を成すものは、東方社所属のカメラマンたちが撮影した写真群ですが、そのなかにあって異彩を放つコラムがあります。
というコラムです(タイトルをクリックすると、立ち読みページに飛べます)。
ここでは、青木さん自身が戦後にまとめていたアルバムからの写真がたくさん紹介されます。
そこには、飛行訓練中の青木さんと戦友たちの写真があり、自筆のコメントも添えられています。
特攻攻撃で死ぬ覚悟をしながら、多くの戦友たちと違って自身は生き残り、上官から「青木、まだ貴様は生きていたのか」と言われた青木さん。
戦後、「一人生きているということはつらいことです」と語っていた青木さん。
最後の写真には、死んでいった戦友たちが並んでいます。その名前に「故」と書き添え、名前の後に享年を加えていった青木さんにとって、戦後とはどういう時間だったのでしょうか。
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