• みずき書林

オンラインショップについての二通りのテキスト その①


先週、2冊の新刊が出来上がりました。

1冊目は神話学研究者・沖田瑞穂さんの『マハーバーラタ、聖性と戦闘と豊穣』。

その翌日には、固定店舗を持たない「タイムトラベル専門書店utouto」を仲間たちと運営している藤岡みなみさんの『dondon』。

この2冊の本は、大きさから流通の方法まで、ぜんぜん異なります。

『マハーバーラタ~』はISBNをつけて、一般書店に流通させる本です。

トランスビューと取次の八木書店を経由して、注文をいただいた全国の書店に配本し、amazonや楽天をはじめとするネット書店でも買うことができます。

ハードカバーで350ページ以上ある大きな本で、専門書なので3500円+税と、値段も高めです。

いっぽう『dondon』は32ページで700円。市場流通しない、ZINE・リトルプレスと呼ばれるもので、藤岡さんが運営するお店と、希望いただいて直接取引している一部のお店の他には、一般書店では手に入れることができません。

コロナ禍による緊急事態宣言を受け、出版をめぐる環境はわずかな間に大きく変わりつつあります。

もっとも大きな変化は、全国の多くの書店が営業自粛・休業しつつあるということです。

そして大手ネット書店では、たとえばamazonは日用品を充実させるために、書籍の在庫制限を始めました。

つまり、ひとことでまとめると、読者が本を手にするための方法が著しく減っているのです。

外出を控えざるをえない今、「本への需要は増えている」「読書の欲求は増えるだろう」というふうにも言われています。

しかし、現実的には多くの書店が店を閉め、本は読み手のもとへと届く出口を失っています。

営業を自粛したまま、二度と再開することができない書店もかなりの数になるでしょう。

上記の2冊に起こっていることを書いておくと、『マハーバーラタ~』は2~3月に営業を行い、数百部の事前注文をいただいていました。しかしその後に休業したお店が多くなり、実際に出荷できた数は減っています。

藤岡さんの書店utoutoは、ギャラリーやレンタルスペースを利用して期間限定でオープンする形式(タイムトラベル専門書店ですから、「時空の裂け目からあらわれる」と表現します)ですが、このGWに神戸に出現する予定だったお店は、残念ながら延期になりました。



前置きが長くなりましたが、以上のような状況を少しでもなんとかするために、小社ではオンラインショップでの発売をしています。

もちろんこれはうちに限った話ではなく、書店であれ版元であれ、自社サイトで販売しているというのは、いまはごく普通の話です。

ただ、ひとり出版社ではそこまで手が回らないことも多い。これはサイト自体の構築もそうですが、もっと問題になるのは、在庫の置き場所だったり、実際の日々の発送作業の手間だったりします。

うちも昨年の10月にやっとネットショップを立ち上げて、ほそぼそとやっています。

外出禁止と書店の休業を受けて、いまネットショップを立ち上げ始めているところも多くあると聞きます。

そこで、いまからネットショップを構築しようという人の参考までに、小社のサイトについて少し書いておきます。

まず、いうまでもないことですがひとり出版社がやっているサイトですから、閲覧数や伝播力は微々たるものです。

大量の注文がくるという可能性は、そんなにありません。

(なので、アイテム数の少ない独立系出版社の場合は、「注文が大量に来て日常の業務に差し障るのでは……」という心配は、おそらくあまりありません。残念ながら)

ぶっちゃけますと、この数日は上記2点の新刊を販売開始したので、昨年の10月スタート以来、過去最高の売り上げを挙げました。

発売開始した先週の土曜日~本日(木曜日)の注文件数は47件。売り上げは11万円弱。

これを多いと見るか少ないと見るかはそれぞれの立場によって違うでしょうが、小社にとっては、ものすごく多いのです。

この瞬間最大風速は過去最大であり、異例の数字です。

毎週こんな数字であるわけはなく、いつもは月の売り上げが1万円前後というのもまったく珍しくありません。

アナリティクスによると、先週比11,000%アップなのです。


さらにぶっちゃけると、先週新刊をアップするまでのこの半年間の注文総数は、70件ほどでした。この週末がちょっとしたフィーバーだったのがおわかりいただけると思います。

ようするに、自社サイトの売り上げだけで経営を維持できるものではまったくない、ということです。


そしてそれでも、やらないよりはやったほうがもちろんいいと思っています。



ここでオンラインショップについての小社の基本的な考え方を書いておくと、読者の本の入手方法としては、

「①街のリアル書店→②大手ネット書店→③小社のサイト」

という優先順位だと考えていて、③は①②が難しい場合の最終的な受け皿という考え方です。

(そしていまは、まさに①②が難しい場合になっています)

なので、

・注文をいただいたら速攻で対応する

という点だけを注意しています。

(そもそも自社のオンラインショップを立ち上げた動機が、②大手ネット書店でぜんぜん買えない/補充がかからない、という状況に業を煮やしたからでした)

加えて、

・「みずき書林通信」というペーパーをつける

・送料は1000円以上のお買い上げで無料に

という付加価値をつけています。送料については後述します。



この際、悪い面や面倒な面にまずは目を向けてみましょう。

まずは、自宅でひとりで出版社をやっている人間がオンラインショップを立ち上げる際の手間やデメリットを明確にしておきましょう。

まず、

A 立ち上げるのに手間がかかる

という点が最初のハードルです。

小社はサイト構築にWiXというオンラインのサービスを使っていて、サイトは全て手作りです(WiXは慣れるまでにちょっと時間がかかりますが、とはいえサイト内にテンプレートが大量に落ちていて、直感的に操作もできるので、うちのサイト程度のことであれば、なんとか自力でも作れます。このブログもその付随機能で作っています)。

WiXにはカート機能もあり、すでにホームページ構築を経験している人であれば、比較的簡単に立ち上げることはできます。


面倒なのは、アイテムの登録です。アイテム数が多いと、単純に手数がかかりますから。

その意味でも、小社は立ち上げ時点で8冊程度のアイテムしかなかったので、楽でした。ということは、早くやったほうが楽だ、ということにもなります。

また、すべてのアイテムを一気にアップするから面倒になるので、最初はとりあえず売れ筋や新刊だけアップしてしまう、ということでいいのだと思います。

小さくはじめて大きく育てる、という気持ちです。


あとは導入前に気持ち的に面倒に感じるのが、クレジットカードやPayPalやオフライン決済の方法などを整えることです。

これもWiXの場合はある程度のガイドラインがあるのでそれに沿ってやっていけるのですが、小社の場合はクレジットカードのオンライン決済か、郵便支払い用紙を同封することでのオフライン決済かの2択になっています。

これについてはオプション不足だと思っています。PayPalもコンビニ決済も導入したい。

でも正直にいうと、いろいろ支障があってできなかったのです。なので後の課題として、ひとまず2択のみで走っている状態です。

ともあれ、クレカだけであれば、多くのショップ構築ソフトが決済システムを内包していますので、この点については実はそれほど難しくありません。

郵便振込は、銀行振込に比べて手数料が比較的安いので使用しています(小社では振込手数料は小社負担にしています)。郵便局が近くにない、という声はたまに聞こえてくるのですが、とはいえ振込手数料のことを考えると、郵便局払いは有効な方法のひとつだと思っています。

以上がショップ立ち上げ時の面倒くさいところです。

とはいえ、これは一回やってしまえばあとは新刊が出るたびに追加していくだけなので、苦労するのは初動だけです。

僕の場合は、えいやっと集中して、2日で公開まで持って行きました。



次に面倒なのが、


B 日常業務のなかの発送作業

です。

これは、注文数によっては時間がかかります。

注文があってから発送までの作業について、小社の場合をごく大まかにいうと、


1・注文があったらメールで通知が来る&サイトの管理画面内の受注リストが更新される

2・本を用意する

3・同封物の用意(上記の「みずき書林通信」及び郵便振替を希望の場合は取扱票)

4・同封物とともに、書籍をビニール袋やプチプチに梱包

5・宛名ラベルを印刷もしくは手書き

6・梱包し、宛名ラベルを糊付け

7・管理画面内のリストを「発送済」に変更

8・投函・発送


となります。

上記の工程をすべて終えるのに、1件につき5分前後でしょうか。


もちろん、この週末のように突発的に注文件数が多い場合は、発送作業に半日くらいかかることもあります。

そういうときには、この作業は確実に収入になっている仕事なのだと言い聞かせながらやるのがコツです。

直接注文ですから、返本はまずありません。時間はかかっても、このひとつひとつの作業が確かに利益になっている、という感覚は大切です(大切なだけではなく、出版社においては貴重ですらあります)

関連して重要なのが、発送方法と送料です。

うちの場合は、主に料金面の安さから、発送は郵便局のクリックポストか、レターパックかゆうメールを使用しています。

詳しくはそれぞれのサイトを見ていただければと思いますが、クリックポストは全国一律198円で発送できます。

ただし、サイズと重量に制限があります。

そのサイズ制限を超える場合は、ゆうメールかレターパックが推奨です。

なお、さらに大きな荷物になった場合は、場所によってはゆうメールよりもヤマトなど宅急便が安い場合もあります。

このあたりは各社のサイトを比較してみてください。

ごく簡単にいうと、藤岡さんの『dondon』は(たとえバックナンバー2冊も追加注文いただいても)クリックポストで発送できて、上製本で400ページを超える『マハーバーラタ、聖性と戦闘と豊穣』はゆうメールになります。

いずれにせよ、この国の郵便・宅急便はかなり優秀ですので、発送方法は「とにかく安い手段で」というのが最優先される考えだと思います。

送料をどうするか問題は、最近も少しだけ書きました

うちは1000円以上のお買い上げで送料無料にしています。

出版社の基本的な考え方は、「自社ショップは間に取引先がいないから、そのぶん送料を負担してもかまわない」ということです。これはたぶん、どの出版社も基本的な考えとして持っていると思います。

通常の書店流通であれば、読者との間に取次と書店が入ります。その取り分は7:2:1くらいと考えてください。

つまり1000円の本が売れたら、出版社700円:取次200円:書店100円という配分になるわけです(すごく大雑把です。実際には7とっている版元は、相当な大手か老舗です。またどうしてそんなに差があるのかといえば、出版社はメーカーであり、制作費はすべて出版社持ちだからです)。

でも直接取引の場合は、当然1000円すべてが出版社に入ります。なので、通常流通をベースにすれば、送料は出版社が負担してもかまわない、という考え方になります。


なお、1000円以内の場合は180円をいただいていますが、これは上記のクリックポストの料金です。

(この4月までは180円だったのです。それは18円値上げになりました。このタイミングで送料を値上げするわけにはいかないという判断で、送料180円は据え置きにしていますが)



最後は、

C 在庫の置き場所

自社サイトで自分で発送する場合は、置き場所がたいへんです。

うちの場合は、目下10点ほどのアイテムを、売れ筋によって各3部~30部ほど置いてあります。

おおよそ段ボール箱3~4箱程度の分量です。

それ以外に、

・エアキャップ(通称プチプチ):巨大なトイレットペーパーみたな形状

・段ボール製の梱包材

・A4、B5規格の封筒とビニール袋

などがスペースをとるグッズです。

こういうものと、ガムテやカッターやハサミなどを、動線を考えながら、もっともサクサク作業ができるように配置しておくことになります。

ともあれ、狭い部屋のなかで在庫や梱包材などが占めるスペースはかなり大きいと考えたほうがいいでしょう。


また、段ボールからガムテがびろーんってなってたり、プチプチがへろってなってたり、封筒の角が揃ってなかったり、部屋の外観を損なうことおびただしいです。そういうのが気になる人は、気になっちゃいます(僕は気になるほう)。

みずき書林を立ち上げて、部屋が職場になったと実感したのは、パソコンを買ったときでもプリンタを買ったときでも、最初の本が出来上がったときでもありません。プチプチを買って部屋の片隅に置いたときでした。

これは日々ずっとすごす部屋のことなので、意外と注意が必要です。


以上、あえて面倒な点やうっとおしそうなポイントを挙げてみました。

……この長いだけのテキストを誰が読むのか?

それはわかりません。

ただ自分でオンラインショップを立ち上げようという声が、僕のまわりにいくつか聞こえています。

そういう方々にとって、多少なりとも、なんらかの参考になれば。

自分自身も、面倒なところや改善点を整理しておきたくて、備忘録として書いてみました。


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