• みずき書林

ヒレカツサンドが食べたくなったら

得意料理のひとつに、ヒレカツサンドというものがあります。

難しいことはなにもありません。

豚のヒレ肉を3センチ幅くらいにカットし、そのウラオモテを包丁の背で叩いて薄くします。

塩コショウを振って、セオリー通り、小麦粉→溶き卵→パン粉の順番に衣をつけて揚げ焼にするだけです。

叩いて薄くしてあるから、大量の油で揚げる必要もありません。フライパンに少々多めに油を引くだけで簡単に揚げられます。


脂身のほぼないヒレという部位が、われわれ一家の好みなのです。

包丁で叩いた肉は柔らかく、セミ・メンチカツみたいな食感になっています。

ほどよい火入れができると、外はカリカリで中はジューシーな美味しいヒレカツができあがりです。


このまま食べるもよしですが、ソースやマスタードとともにお好みのパンに挟むと、なかなか素敵なごはんになります。

揚げたてで温かいぶん、まい泉を超えているといっても過言ではない。



これが妻の好物で、油っぽい料理はそれほど好まない妻が、このヒレカツサンドだけは、この世で最も好みのサンドイッチだと食べてくれます。

先日も食べながら、いつものように無邪気に美味しいと言われ、僕は不意に涙がこぼれたのでした。

先述のとおり、難しくもない料理で、いままで何度も作ってきました。

作るたびに褒められ、褒められるたびに「いつでも作れるよ」と言ってきたのでした。

しかし、もう僕は「いつでも作れるよ」とは安請け合いできないかもしれません。

いまから何年か後に妻がヒレカツサンドが食べたくなっても、そのときには僕はもう作ってあげられない可能性が高いのです。

そのときはどうするんだ。ヒレカツサンドが食べたくなったら、どうしたらいいんだ。


ヒレカツサンドなんて雑な料理を食べながら、じわじわと涙が滲んだのでした。



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今日から日常復帰。通常業務に戻る。 メールに返信をして、電話をして、ゲラにチェックを入れて、本の発送手配をする。 お昼は蕎麦を茹でて、出汁巻き卵を巻く。 でも、ふと手を休めると力が抜けそうになる。 仕事の合間に、『旅をひとさじ』の特設サイトに智秋さんがアップしていた33本の旅のエッセイを読み直す。 そのうち1本は僕が書いたものだから、32本か。 彼女の口調そのままの文章。 きみに肉体がないとは、ふ