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  • 執筆者の写真みずき書林

僕は明日車に轢かれて死ぬとは思っていないということについて。


たとえば、

「明日、自分も車に轢かれて死ぬかもしれない」

「日本人はふたりにひとりは癌になる」

「いつ死ぬかは誰にもわからない」


去年の9月以降、そんなふうなことをよく言われました。

僕も頷きました。

それは僕を慰めるための善意のことばです。


でも、やっぱり明日車に轢かれて死ぬかもしれないことと、今日癌を――進行の早いスキルス癌を患っていることでは、暮らしに対する向き合い方が違ってきます。

少なくとも僕は、少し変わりました。


明日車に轢かれて死ぬかもしれない我々は、しかし、そのことを毎日肌身に感じて悲しんでいるわけではありません。

理屈としては明日死ぬかもしれないとわかっていても、実際にそれが自分の身に起こるとは思っていません。

僕だって、明日自分が車に轢かれて死ぬとはまったく思っていません。僕の死因ははっきり決まっていると思っています。

何事もなければ、我々は――とくに40代くらいまでは――永遠に生きるかのように暮らしています。

「杞憂」という故事のとおりです。普通の健康な人間が「明日車に轢かれて/天が崩れてきて死ぬかもしれない」と思うことは、まさに杞憂なのです。


ところがある日、もってあと数年だと宣告されます。

その日から毎日、自分が死ぬことについて考えざるを得ないことになります。

日常は続いていくのに、そこに自分がいないこと。家族や友人たちの日々は僕抜きで続いていきます。僕がみずき書林のオフィスとして使っていていまこのブログを書いている部屋には誰もいません。いずれみんなの記憶は薄れていき、僕はごく自然に、いるのが当然の人から、いないのが当たり前の人になっていきます。

それはうまく想像ができないことです。


あるいは、自分の死ぬ日のことを想像します。病院のベッドで寝ているところ。強い痛みを感じることになるのでしょうか。コロナ禍のなかで、最後の面会は許されるのでしょうか。

そのとき僕は、上手にみんなにことばを残すことができるのでしょうか。

そんなことを考えるのはかなり怖いことです。


その一方で、人はどんなことにも慣れるんだなあと実感もしています。

上記のようなことを考える一方で、呑気で、いっそバカみたいなことばかり考えてもいるのです――まるでまだまだ生きていられるかのように。

シャワーを浴びているとき、夜中に目が覚めたとき、郵便局に行くために道を歩いているとき、不意に自分が死ぬことをリアルに感じます。

でもそんなことを考えているとき以外は――つまり起きている時間の大半は――いままでどおり、普通のことを考えてもいるのです。

仕事の進め方。イベントの日程調整がうまくいかないこと。このあとのごはん。冷蔵庫に何が残ってるんだっけ。犬がかわいいこと。そろそろ餌を買い足さないと。次に読みたい本のこと。ハマっているYouTubeの料理動画。ハーゲンダッツのアイスが食べたい。プリンも。

死ぬかもしれないと感じながらも、そんなしょうもないことばかり考えてもいるのです。


不思議なものです。

僕はひょっとして、おそろしく呑気なのかもしれません。

もしくは、すごく馬鹿で真剣さが足りないのかも。


でも、こういうふうにしか感じられないのだから、そういう自分を受け入れないといけません。

呑気に笑いながら、いけるところまでいくこと。

思想なんかいらないから、今まで通りにへらへらと過ごすこと。

淡雪のように、気づいたらふわっと溶けるようにいなくなっていた。なんていうのがいいのかもしれません。


でもその一方で、大事なことを感じ損ねているような気もするのです。

それがどんなことなのか、よくわからないのですが。

なにか重厚で深遠で、こういう境遇にある者だけが感じることができる何かを。


でももしも明日、車に轢かれて死ぬのだとしたら、そんな深遠なことに気づく暇もないだろう。それはあまりにも悲しい(そしてそんなふうに、自分が死んだことすら知らないまま死んでしまう人も、たくさんいます)。


だとすれば、大事な何かなんて、そもそもないのかな。




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