最近、大学生と接する機会が多い。
非常勤講師をやっているということもあるし、ここ3週間は、知人の大学教師の授業にゲスト的に参加させてもらう機会もありました。
今年の学生はコロナの影響で、大学に通うことに疑問や悩みを抱いている人が多いといいます。
友だちが作れない。
サークル活動はできない。
オンライン授業はどうしても一方通行気味になりやすい。
貴重な4年間の1年がこんなふうに過ぎてしまったことがつらく、来年もそうかもしれないと思うと虚しい。
多くの学生がそんなふうに感じているという記事を読みました。
で、月曜の演習の授業には、アーヤ藍さんにゲスト参加いただいて、学生たちが彼女にインタビューするという模擬取材を行いました。学生たちは自分たちで考えた質問をもとに、緊張しながらも楽しそうに対話していました。
今日は明学の田中さんの授業にお邪魔して、学生たちが映画鑑賞後に監督と語り合う場に同席させてもらいました。僕の発言はともかく、映画を作った人と親しく話ができる機会は、印象深いものだったはずです。
後で学生時代を振り返って、ぼんやりした印象でもいいから、何か充実した手触りが残るといいなと思います。
2020年は何となく薄暗くて平板だったかもしれない。せめてそのなかで、多少なりとも楽しかった・面白かったという起伏をつけたいものです。
アーヤさんとの模擬取材のあと、「今回はオンライン下での授業とは思えないほどの充実度で……」と感想を書いてくれた学生がいました。
そういう感触が少しでも残るような時間を提供したいものです。
……なんだか学校のセンセイみたいなこと言ってないか?(苦笑)
僕はそういう教育を受けてきた人間ではないし、本質的に人にモノを教えられるような資格はない。それは謙遜でもなんでもなく、ただの事実です。
以下は僕自身の資格/立場について、授業でしゃべるために作ったメモ。
ごくたまに誤解されることもあるし、自分自身も何の資格があってエラそーに教壇に立っているのかたまにわからなくなることがあるので、ここにペーストしておきます。
***
△この授業は「成功例」を教えるものではない。「自分ならどうする」
もうひとつ、本筋から外れるけど、もっと大事なこと。この授業は「成功例」「こうすればうまくいく」ということを教えるものではありません。
ぼくはこんなふうにやってきた、という実例を、そのプロセスでつかんできた多少の実感とともに喋るだけです。それは唯一の正解ではありません。失敗例ですらある可能性があります。
大事なことは「自分ならどうする」と考えてもらうことかな、と思っています。
これは編集だとか企画だとかいう今回の中身だけでなく、この講義全体に関わる点です。
成功例やうまくいく方法を教えているわけではないです。
最初に言った通り、ぼくは出版業界にそこそこ長くいるという資格で、いわば大学の外部から、外人部隊として非常勤講師をしています。でもこの授業は、成功者がノウハウを伝える、というものではありません。僕は成功者ではない。
ぼくには社会でうまいことやっていく知識や技術を伝授する資格はありません。
この講義では、いちおう社会人として、なんとか生きていく方法を現在進行形で模索している者のひとりとして、「どうせ生きていかなくてはいけない」「こういう生き方もある」ということを示したいと思っています。
日本の経済はここ数十年、まったくうまくいっていません。そのことは皆さんも知っていると思います。コロナの影響で、それはますます悪化しつつあります。
つまりいまの日本経済が上手くいっていない原因のひとつには、この数十年社会に出て働いてきた者たちの責任もあるわけです。そのようなものが「こうすればOK」みたいなやり方を伝授しても、説得力はありません。
ぼくは「この厳しい社会の中で、僕自身はこうしてきた」ということを語るだけです。それが最良の方法であったかどうかはわかりません。その方法をみなさんもそのまま実践すればいいよなどと言うつもりも一切ありません。ただ、ぼくはいま現在、そのように生きているというだけです。
あなたたちは、この授業でハウツー的な知識を得る必要はありません。
そうではなくて、「自分ならどうする」と考えながら、聞いてください。そしてその考え方を、これから先も少しでも持ち続けるなら、その「自分ならどうする?」という問いかけだけが、この授業が提供できる、一番マシなものです。
社会に出たときに、なんらかの壁にぶちあたります。うまくいかないことは日々起こります。そのときに「そういえば、学生の頃に受けた授業で、誰かが上手くいかないことは絶対起こるって言ってたな。実際に、いま起こってるな。さて、自分ならどうするかな」とちょろっとでも思い出してもらえれば、それだけが、この授業を受けた意味です。
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