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  • 執筆者の写真みずき書林

宇佐美雅浩の手つき


たとえばイヤホンのコードがからまったとき。

梱包のテープがうまくはがせないとき。

ネットが重くて表示に時間がかかるとき。

そんなときにイライラして、つい強引に引っ張ったり、力任せに引きはがしたり、F5を連打したりしてしまうことがあります。


そんなときに、宇佐美雅浩の手つきを思い出します。

宇佐美さんは、いまつるんでいろいろやっている写真家です(詳細はいずれ)。

以前にも書いたことがありますが、

イラついたときには、彼の手元を思い浮かべます。



かつて撮影のために、彼の事務所を森に変える手伝いをしたことがあります。

本物の森から、桜の木や竹や松の枝や苔むした木の皮を運んできて、普通の部屋に木材や石や枯れ葉を敷き詰めて、森に変えていくのです。

それを部屋の端に設置した超広角のレンズで撮影します。


天井や壁には材木で枠組みが作られていて、桜の木や竹は糸で縛られて、その枠組みに固定されていきます。

一本ずつ木や石の位置を決めてはカメラをのぞき、数センチ単位で位置を微調整していきます。

カメラは超広角なので、少し位置を変えるだけで、見え方が全然違ってくるからです。


宇佐美雅浩は黙々と、クソ重い石を移動させ、竹を壁に並べて糸を結束し、結び目を消すために細く裂いた黒いガムテを糸の上に丁寧に貼っていきます。

狭い事務所は、数百もの木や石や枝や枯れ葉の微調整のなかで、うっそうとした人工の森に変わっていきます。



一度こんなことがありました。

彼はカメラの真上に、材木の骨組みを組み立てていました。そこに松の枝を吊ることで、カメラの端から枝が少しだけ見えるようにするためです。たしかに、近距離から枝が少しだけ見えるだけで、ぐっと奥行きが増します。

材木と紐を組み合わせて、20分ほどもかけて、彼は骨組みを作りました。そこにさらに枝を固定し、そのたびにカメラをのぞいて、位置を調整します。さらに時間が過ぎていきます。

天井から吊る作業なので、ずっと上を向いていて、けっこうな重労働です。


そのようにして微調整を繰り返しましたが、その結果、骨組みの位置が悪いという結論になりました。

そのとき彼は、「ダメだな、うまくいかない」と呟くと、なんの躊躇もなく、いままで格闘していた骨組みを外しはじめました。

その手つきは冷静で、時間をかけて結束した糸を外し、苦労して組み立てた骨組みをどかしていきます。

そしてすべて一からやり直すのです。



本人はたぶん覚えていないでしょうが、僕はたまにそのときの宇佐美雅浩の、冷静に一歩ずつ目的に向っていこうとする手つきを思い出します。

宇佐美さんが載せていいと言っていたので、メイキング写真を。


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