『タリナイ』を連日鑑賞しています。
(平日の昼間っから毎日映画を観ているとはいい身分のようですが、朝と夜に馬車馬のように働いているのです。いちおう)
昨日(3日)のゲストは、歴史民俗博物館の三上喜孝先生。
赤外線観察の技術を用いて、冨五郎日記の解読の最後の扉を開いた方です。
『マーシャル、父の戦場』では、その際のテキストのほか、巻頭の大林宣彦雄監督への取材にも全面参加いただき、さらに巻末を飾る対談の相手でもあります。
つまり、編者の大川さんとともに、書籍の最初と最後と真ん中のすべてに携わってくださった人物です。
お話は、ご専門である赤外線監査の話からはじまり、大林監督の取材日の話へ。
そしてそれらをまとめあげるように、映画と本とマーシャルにまつわる不思議な縁が、次々と披露されます。
一見それぞれ無関係に見える、三上先生のこれまでの体験や人間関係が、この映画と本に流れ込んでいき、さらに広がりを見せていきます。
この日は三上先生の恩師の方も客席におられました。その方もまた、三上先生が研究者になるのに大きな影響を与えた方であると同時に、マーシャルに関わる活動をしておられ、間に人を挟んで大川さんともつながっていました。
「幸運は思いの強さが引き寄せる」というのは、本を作りながらしばしば交わされたことばですが、幸福な縁が連なっていく三上先生のお話からは、まさに先生と大川さんの「思いの強さ」が可視化されていく過程が見えてくるようでした。
本日(4日)は元在マーシャル大使、安細和彦さんが登壇。
たまたま、大使は僕の斜め前の席に座って鑑賞されていましたが、ときにくすっと笑いながら、じっと身動きしないでご覧になっていました。
マーシャル大使館に勤務するという、なかなか普通の人にはない体験を、ユーモアを交えながらお話しされました。
個人的には、「環礁」という地形についてしっかりと説明なさっていたのが印象的でした。日本は島国ですので、逆に環礁という地理が頭に入ってきにくいのではないかと、いつも感じていました。
マーシャル諸島共和国はその名の通り、いくつもの島から構成されていますが、そのそれぞれの島も、いくつもの小さな島が輪のように連なったものです。劇中や本に登場するウォッチェやエネヤやアグメジといった島々がウォッチェ環礁という輪を形成しています。同様の成り立ちを持つマジュロ環礁やビキニ環礁などが集まって、マーシャル諸島共和国になる、という入れ子構造になっているわけです。
そして話の後半で、安細大使は「映画と本に関わった人たちの意志の強さ」というお話をなさいました。
日記を書き続けた冨五郎さん、その日記を守り続けた勉さん、勉さんを支えて旅をした若い人たち、日記解読に力を注いだ金曜調査会の人びと、それらを映画と本という形にまとめた大川さん。
そういった人たちの「意志の強さ」が感じられるというお話でした。
「意志の強さ」というのは「思いの強さ」とも言い換えられると思います。
そういう人たちが集まったからこそ、さまざまな幸運が招き寄せられ、大川さんの腕のなかで映画と本になりました。
三上先生の話と安細大使の話も、つながって環礁を形成しています。
もちろん、本と映画も環礁のような関係にあります。
冨五郎さんはじめ、時代や場所を超えてそこに関わった人たちも、みんな底の部分でゆるやかにつながって、環礁を作ったのだといえるかもしれません。
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