その視点の最大の特徴は、
弱さをそのまま弱点と捉えるのではなく、多様性の表現や特長へと変換すること
にあると考えています。 言い換えれば、弱さとは、単なるウィークポイントではなく、微かなつながりのことです。
よって弱国史は、逆説的なジャンルであるといえます。 ある弱国について考えれば考えるほど、実は弱国ではない(=我々とのつながりがたしかにある)と実感することになります。 ここでいう弱国という概念は、浅瀬を超えて島に上陸するための桟橋のような、遠くの星に到るために切り離される燃料タンクのような、暫定的な役割を果たすことになるでしょう。
具体的な視角としては、
・語れることの少ない、日本との関係を見つけ直す ・政治的・経済的・軍事的な関係以外に注目する
となり、狙う効果としては、
・垂直的には、強国史を相対化する ・水平的には、隣国との関係を相対化する ・なによりも、国ではなく人を前景化させる
といったあたりでしょうか。 以下、大雑把に見ていきます。
まず、〈語れることの少ない、日本との関係を見つけ直す〉という点について。 あらためて書いておくと、ここで言う「弱国」とは、 「日本との関係が弱い(とされている)国」 です。 いままであまり注目されてこなかった、我々との関係をあらためて掘り起こし、発見し直すのが、弱国史の基本的な作業となります。
具体例を挙げます。 たとえば、2017年に前野ウルド浩太郎さんが、『バッタを倒しにアフリカへ』という本を出されました。 これは若き研究者である前野さんがアフリカはモーリタニアへと行き、バッタの食害を研究する……という科学ルポというか冒険ノンフィクション本です。 ごく控えめにいってものすごく面白い本なのですが、この本の功績のひとつに、モーリタニアという国を日本とつないだという面があると思っています。 僕もそうでしたが、モーリタニアについてほとんどの人が何も知らないと思います。日本のスーパーで売っている蛸の多くはモーリタニア産とのことです。 前野さんのこの本は、モーリタニアという国を紹介することを目的として書かれたわけではありません。しかしそのようなモーリタニアを、どこかにあるその他大勢の小国のひとつではなく、記憶に残る場所として読者に伝えることに成功しています。
あるいは皆さんは、セントビンセント及びグレナディーン諸島という国を知っているでしょうか。 カリブ海に浮かぶ島々からなる、人口10万人程度の小国です。 僕はこの国についてまったく知りませんでした。つい最近ある人に教わるまで、名前すら知りませんでした。いまでも名前くらいしか知らないのですが、この国の主要輸出品は葛だということです。 葛が主要輸出品である小国と、古来葛を利用してきた日本。もしかしたら関係があるかもしれません。 セントビンセント及びグレナディーン諸島に魅せられた人びとが、日々そのつながりを紡いでいるのかもしれません。
そういう国々とのつながりを知ってみたいのです。
(つづく)
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