top of page
  • 執筆者の写真みずき書林

往復書簡「本を作ること、生きること」第4回復路――我々は日々、思い出を作る


堀くんへ



第4回のテキスト、とても面白く拝読。

君を驚かせるために、超速で返信をアップしてみます。


『哲学の教科書』、僕の本棚にあったので書影を載せておきます。

カバーにもばっちり「メメント・モリ」と書いてありますね。




堀くんのテキストを読んで、2018年の夏~秋にかけて、『マーシャル、父の戦場』などを刊行し、『タリナイ』のアップリンク上映に足繁く通っていた頃のことを思い出しました。本当に楽しい日々でした。浅草の蕎麦屋を貸し切って刊行記念会をしたり。明治学院大の田中さんと再会して映画帰りに酒飲んだりね。


つい最近、我が家で『タリナイ』上映会をしました。荻田さんとか5人くらいの友人知人が集まって。

久しぶりに映画を観て、この作品は僕にとって「青春映画」だったんだと認識しました。内容はマーシャル諸島共和国と日本のいびつな歴史にまつわるものだし、この映画を観まくっていたころの僕は40歳で、青春時代と呼ぶにはいささか歳がいっていたけど、にもかかわらず、この映画は僕とみずき書林の青春時代を象徴する作品だと感じました。

特設サイトを見ると、当時の高揚したテンションがよくわかる(とくに日記解読を行なった金曜調査会を紹介するあたりなど)。

作中のウクレレの音色を聴き、波の音を耳にすると、あの頃を思い出して心がざわつきます。いわば青春時代のBGM。心配事といえば資金繰りくらいだったあの頃。


逆に言えば、残念ながら、みずき書林の青春時代は終わったということなのだろう。期待していたよりもずっと早くに。


なおひとつだけ誤解を解いておくと、

「出資者になったら、それだけに収まらず、プロデューサーの様に映画に関わっていきそうな気もします」

と書いてますが、それはないな。

この映画制作チームには強力なプロデューサーがついているし、僕はもし資金的に可能であるなら、「カネは出すけど口は出さない」というかたちをとりたかった。出資のただひとつの条件は「もし本映画作品に対応する書籍化企画が生じる場合は、書籍作品はみずき書林より刊行すること」にするつもりだった。


*


この往復書簡を読んでくださっているある方(我々にとっては出版業界の大先輩だ)から、感想のメールをいただきました。

そのなかに、フェリーニのことばとして以下が引用されていました。


「私は生きることより思い出すことの方が好きだ。結局は同じことなのだけれど」


実に味わい深い、憶えておきたいことばだなと思って、ここに記しておきます。

おそらくこのブログのどこかに書いたのだと思いますが(うまく見つけられない)、病気になってから僕は、「生きることは思い出を作ることに等しい」といった趣旨のことを書いたように記憶しています。

もう少し年齢を重ねたら、あるいは環境がほんの少し変われば、これが「生きることは思い出すことに等しい」ということになるのかもしれません。

いま40代半ばで末期がんになった者として、僕は毎日を送っています。

何をしているかというと、周りの人たちに思い出を作っているのだと感じています。メールやLINEでやりとりしながら、会って喋りながら、一緒に美術館に行き、自宅で映画を観ながら、僕はささやかな思い出を生産している。

死んであの世に持っていけるものは何もない、みたいな言い方はよくされますが、死んでこの世に残せる一番大切なものは、おそらく思い出です。誰にも思い出されることがなくなったとき、その人は本当の意味で死を迎えるのだと思います。


我々は日々、思い出を作ります。

そして日々、誰かのことを思い出します。


……実はいま、ある仲間のひとり出版社から提案をいただいていて、いま考えていることを本にまとめないかと言われています。

完成までたどり着けるかわかりませんが、力の及ぶ限り精一杯やってみるつもりです。

そしてこの数日考えた結果、本のコンセプトは上記のようなものになりそうです。

40代で末期がんになった編集者が、ひとり出版社の立ち上げから現在までを回想するエッセイ、というのが表向きの姿になりますが、通奏低音は「思い出すための本」になるような気がしています。

僕が過去を思い出すという行為を通して、この本自体が僕自身を思い出すための装置になる、ひいてはそれが、読者ひとりひとりが想起と死に思いを馳せるためのよすがになる、そんな本を作りたいなと思っています。


さて、うまくいくかどうか。

このことは本ブログとも密接に関わることなので、おいおいまた書いていきます。

(このくだりは、堀くんへというかたちをとりつつ、フェリーニのことばを教えてくださった大先輩への返信という気配も濃いですね。本のヒントをいただき、ありがとうございます)


*


いま君が克服しようとしていることのひとつめ。

「それをやりたいと自分が思えば、躊躇はしないこと」

これはとても大事なことだと思います。

関西でいうところの「いっちょ噛み」の精神ですね。面白そうなこと、自分の枠を広げられそうなことには一枚噛んでみるということ。

かつて僕がある先生に言われたことばを借りれば、「乞われれば一指し舞える人になれ」ということでもあると思います。もし要望があれば、さっと立って一指し舞ってみせるくらいの用意はしておくように、という意味でしょうか。

僕は前職の社長時代から、これを自分に課してきました。

社長をやっていると、何かの会合でスピーチをやってくれとか、毎朝朝礼で何か喋るようにとか、ムチャ振りをされることがたまにあります。そういうときに脊髄反射で断ったり、ヘンにもじもじしたりせず、さっさと受けて立つこと。

ひとり出版社になってからも、思いがけないチャンスや想定していない依頼を受ける時があります。そういうときにも、それが楽しそうであればトライしてみること。

これは自分と自分だけの組織を硬直化・ルーチン化させないためにも、けっこう重要なことだと思っています。

そのようにして僕は、大学の非常勤講師を3年ばかりすることになりました。はじめてZINEを作ることにもなりましたし、書店フェアで著者の似顔絵などを大量に書くことにもなりました。今回、こうやって往復書簡を書いているのも、本を書くことになったのも、同じ姿勢からです。

やったことないことは、なるべくやったほうがいいよ。

そのほうが絶対面白くなるし、その決断を簡単にできるのが、スモールユニットの最大の強みなんだから。


「もうひとつ、克服したいことを挙げれば、「寂しさ」かもしれません」

については、確かに贅沢な悩みだな。僕にはよくわからない(笑)。

僕が5年ばかりひとり出版社をやってみて実感していることは、

「ひとり出版社はひとりではない」

ということです。それこそ〈みずき書林がやりたいこと〉のテキストではないけれど、我々は多くの人に囲まれて日々仕事をしています。そのなかには、親しくことばを交わすようになる人もいるでしょうし、本作りという仕事を超えて交流することになる相手も出てきます。

僕にとってはそれが新鮮で心躍ることだったし、いま神様が目の前に現れて、僕の人生における重要人物はすでに全員出揃っていると言われても(そして実際出揃っているのだろうけど)、何の不満もありません。

君もこれから、そういう出会いをしていくんだと思うよ。


まあ、どうしても「同僚」が欲しければ、がんばって会社の規模を大きくして、誰かを雇うことだな。

だけど警告しておく。たとえ誰かを雇ったとしても、その人にとって君は「雇用主」だ。「社長」だ。決して君が望むような対等な関係にはなりえないことを予言しておく(笑)。そのときの「寂しさ」もまた味わい深いものだけど(笑)。


*


この往復書簡、いちおう5往復で一区切りにしようという約束だったので、早いもので次回がもう最終回です。

この復路に応答する形で好きなことを書いてくれていいんだけど、一応締めになるようなお題をひとつ設けておきます。お題は、

〈1年後の図書出版みぎわのすがた〉

にしようかな。

1年なんてあっという間に経ちます。

でも立ち上げたばかりでいかようにも変化しうるひとり出版社にとっては、首が座って人格が形成されるための大事な時間です。

1年後にどんな姿になっている予定か、聞かせてください。


*


クーラ・シェイカーの2ndが良いという意見は賛成。当時はあまり注目されなかった作品だけど、なかなかかっこよくて繰り返し聴いてた記憶がある。


今回のテキストを書きながらずっと聴いていたのは、レッド・ツェッペリン。ツェッペリンのアルバムはどれも名盤だけど、いま聴いていたのは『Presence』。リフ・メイカ―としてのジミー・ペイジの才能がよくわかる名盤。ジョン・ボーナムのドラムの豪快さについては言うまでもなし。

最近、著者たちとツェッペリンについて雑談する機会があって、あらためて聞き直している。



最新記事

すべて表示

往復書簡「本を作ること、生きること」第2回復路――自由で危険な広がりのなかで

堀くん 第2回往路を読みました。 鶴見俊介曰く、 「歴史を考えるときには、「回想の次元」からだけでなく、「期待の次元」からも見ることが大切だと思っている」 とのこと、つまり、歴史を考えるときには、ある種のポイティブさをもって臨むことが必要ということでしょうか。 期待というのは未来(これから起こる歴史)を見つめるときの態度であって、回想は過去(すでに起こった歴史)を見通すときに必要である、とするなら

Comments


bottom of page