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執筆者の写真みずき書林

新しい抗がん剤 9/15


7時起床。

最近はかならず5時に目が覚めて、それからずっと眠れないので読書などしながら7時を迎えるのがデフォルトになっていた。

この時間まで途中覚醒なしで寝られたのは珍しい。


朝食を作る。

オーソドックスなハムエッグ。ブルーベリーソースをかけたヨーグルト。

母が送ってくれたじゃがいもとセロリのポタージュ。トーストにはクリームチーズとはちみつ。アイスティ。


クリームの散歩。

ぼくは広尾駅まで同行して地下鉄へ。

今日は新しい抗がん剤治療のスタートでがんセンターに行くんだ。


昨日、デザイナーの宗利さんと久しぶりに会った。

打ち合わせからの雑談で話は自然にジャン・リュック・ゴダールのことになる。

若い頃に観た映画だけど、いま太陽が海に溶けていくイメージのことを思うとなぜか泣ける、と言っていたのが印象的だった。

どこに書くべきかわからないけど、憶えておきたいことなので、ここに書き留めておく。

去年の冬、当時やっていた非常勤の講義に、宗利さんをゲストで招いたことがある。そのときに最前列で写真を撮っていたモグリの受講生が智秋さんだった。智秋さん、ついこの前、亡くなっちゃいました。そうか、あのときは元気そうでしたが……。


9時30前に到着。

受付をしてまずは採尿採血。

10時過ぎには終わる。

それから待合室で待つ。読書はバルザックとメイ・サートン。

11時30分過ぎ、診察。

血液検査の結果はまずまず良好。治療の支障になるレベルではない。

先日の造影CTの結果、胃のがんが少し大きくなっている。入院前にTS-1を飲むのを止めて腸炎の治療に専念し、以降1カ月抗がん剤を飲んでいないので、ある程度仕方がない。

今日から始めるラムシルマブとパクリタキセルが効いてくれれば。


12時過ぎからランチ。

星乃珈琲でオムライス。最近ずっと、オムライスが食べたかった。

13時30からケモ室で投薬開始。

普段はファーストクラスみたいなソファなんだけど、今日は新しい薬のスタートなので、念のためベッドで寝ながら受ける。

アレルギー予防の薬→アレルギー予防薬もうひとつ→ラムシルマブ→生理食塩水→パクリタキセル→生理食塩水。長い。

点滴を受けながら、看護師さん、薬剤師さんの説明を受ける。最初だからね。

アレルギー薬が眠くなる作用があるので、前半1時間くらいうたた寝。

でもまだまだ終わらない。

バルザック読了。

メイ・サートン『74歳の日記』。赤の他人の日記がどうしてこんなに面白いのか。考えてみれば不思議。

犬と猫との毎日。多くの友人。庭の草木の手入れ。詩が湧いてこない。病気で朗読会をキャンセル。音楽を聴く。ところどころに挿入される省察。過去の思い出。

脳梗塞を患った独居老人であるメイ・サートンは、それでも前向きで丁寧に――ときに自分にいらだち、絶望もしながら――身の回りの日々を積み重ねていく。

彼女の日記はまだたくさんあるから、まとめて買わないと。

あくが強く濃厚なバルザックと対照的。

このふたりの作家についてはまた書く。


終わって、会計を済ませて外に出てみれば、すっかり薄暗がりになっている。長かった。疲れた。

体調の変化はいまのところなし。

明日以降も副作用がでないことを祈るばかり。祈るばかり。


帰宅してソファで寝転んで読書の続きをしながら身体を休める。

夕食は妻が作ってくれる。ポテトサラダを添えたハッシュドポーク、トマトのマリネ。ほどよい量。美味しく食べる。


夜はメールの返信をしたり、最低限今日やるべきことのみやって、早めに風呂に入る。


嘘のような本当の話なんだけど、今日、ケモの待合室で智秋さんにそっくりの女性を見た。

小柄で、同じような髪型で、首回りと袖の折り返しに赤いラインが入った白いTシャツとジーンズ。

思わず二度見した。


メイ・サートンも犬好き。



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