覚悟をうながす経験は、満潮時の波のようにやってくるのかもしれない。
ひたひたと足元に寄せてきたと思うと、危うく足を濡らす寸前で引いていく。
それが何度か繰り返されるうちに、確実に波は水位を増してきて、やがて足を濡らし、徐々に足元を満たしていく。
しばらく続く今回の痛みも、そういう波のような経験のひとつなのだろう。
次の痛みは、今回の痛みよりもほんの少し強いのかもしれない。そうとは気づかないくらい少しだけ。
そしてそんなことを波状に経験するうちに、ぼく達は少しずつその痛みに慣れていき、覚悟を養っていく。
そのようにして、波は徐々に首元まで寄せてくる。
次の波は、鼻に入って息を止めるかもしれない。
そのときにはすっかり覚悟ができているだろうか。
ぜったいにそんなことはないだろうな。
めちゃくちゃ怖くて、心底寂しいに決まっている。
でももしかしたら、何度も波を見てきたからこそ、頭の片隅にはそれを受け入れるだけの小さな余白ができているかもしれない。
覚悟とは大げさでかっこいいものではなく、そんな程度の救いなのかもしれない。
……さあ、次の痛みがやってきたときに、この文章はなにがしか有効に働いてくれるか。
それとも何の役にも立たないか。
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