冒険家の荻田泰永さん主催のイベントに行ってきました。
ゲストは諏訪敦さん。
間に1時間の休憩を挟んで、前後半2時間ずつという長丁場のイベント。
諏訪さんはクールなイケボの持ち主で、じっくりと時間が流れていきます。
絵画の写真はもちろん、取材中のスライドもたくさん用意されていて、飽きさせません。
そのなかから、思わずスマホで写真を撮った1枚があります。
30代の若き諏訪さんが、90歳を超えて介護ベッドに寝ている大野一雄に取材をしている1枚です。
(ウェブにアップしていいのかわからないので、写真そのものは載せません)
写真の右半分には、背を起こした介護用ベッドに横たわる大野一雄。
もはや老境で、喉元や手は節くれだっていて、目は開いているのか閉じているのかわかりません。鼻梁は高く、口は苦しそうですが、何か喋っているようです。
左手には、若い諏訪さんが椅子に座っています。
ニット帽をかぶり、いかにも若々しいですが、こちらも高い鼻梁と、鋭い眉と目元は、たしかに諏訪さんです。
膝にはスケッチブックを起き、右手にペンを握り、そのことばを聞き洩らさないように、大野一雄のほうに身を乗り出しています。
この写真が、なんともいえず格好良くて、惹かれるものがありました。
単純に諏訪さんの顔がいいということもありますが、60歳差を超えて歴史実践する若者の食い入るような様子が捉えられています。
この写真を含めて、諏訪さんが用意されたスライドには写真と絵画作品が交互に現れるのですが、荻田さんが絵を見ながら「この写真は……」と言いかけたように、長い時間話を聞いているうちに、まるですべてが諏訪さんの描いたもののように見えてくるのでした。
諏訪さんには、古典的な西洋風の母子像の構図で、幼い息子(諏訪さんにとっては父)を抱く祖母を描いた《棄民 Civilians》という作品があります。その元になった《葫蘆島のホテルにて》というスケッチもあり、それらの作品では、若くして亡くなった祖母は、半ば白骨化したような、肉の削げ落ちた姿で描かれています。
『なぜ戦争をえがくのか』の諏訪さんのパートの終わりには、大川さんが撮影した、若い夫婦が赤ちゃんを抱いている、マーシャル人の一家のポートレイトを入れたのでした。
そんなことを思い出しながら、絵を追究していく濃密な話を聞いていました。
*
ところで、会場は荻田さんのオフィス「冒険研究所」なのですが、ここは近いうちに「冒険書店」といった本屋さんになる計画とのことです。
いまは探検の装備や写真パネルとともに、荻田さんが集めた関連書籍が並んでいるのですが、そのなかになんと、9年前に僕が編集した本がありました。
小長谷有紀先生が編者の『梅棹忠夫『人類の未来』』。
(荻田さんは「梅棹忠夫 山と探検文学賞」の受賞者)
みんぱくで膨大な未発表対談原稿をコピーしたり、宇宙飛行士の毛利衛さんにインタビューしたりした、思い出深い本です。
こんなところで再会して、不思議な気分になりました。
Comments