森岡書店さんで
「銀座」遠藤薫展
が開かれていました。
遠藤薫さんが日本中にある「銀座」と名のつく商店街や通りを訪ね歩き、そこで拾い集めてきた様々なものを並べています。
いわば、日本中の「銀座」の名残や痕跡を、東京の銀座の一角に集結させようという企画です。
同時にこの展示そのものが、一冊の本を作るための編集会議・思考実験の場にもなっているとのことです。
この展示をきっかけに、1年後に本が作られるのだとか。
「一冊の本を売る」がコンセプトの森岡書店さん、しかし今回は一冊も本を売っていません。今回に限っては、「一冊の本を作る」がコンセプトになっています。
「銀座」の欠片として並べられ品々はほんとうにバラエティに富んでいます。ざっと見ただけでは、それらの間に関連を見出すことは難しいかもしれません。
おそらく遠藤さんの脳内には、その品々を拾い集めたときに記憶とともに、さまざまなつながりや円環が生まれているのだと思います。
鑑賞者は遠藤さんと会話しながら展示を見ることによって、その世界観や今後の方向性を、ちょっとだけ垣間見るような気持ちになっていきます。
ぼくがお話をうかがったときには、遠藤さんは日本各地のコミューンについての話をして下さいました。
そこから派生して、白樺派の作家たちの話をしました。
おそらく、遠藤さんは会う人ごとに話す内容をどんどん変えているのではないかと思うのです。目の前には日本中から拾ってきたアイテムが山と積まれていて、そこから連想されるストーリーはたくさんある。
鑑賞者の関心のままに、遠藤さんはそのアイテムにまつわる話をどんどん展開していくことができる。
それは落語の三題噺にも似た、即興の対話パフォーマンスのようでもありました。
ぼくは以前、ある宣伝文に「遠藤さんはいずれ詩を書くんじゃないだろうか」と書いたことがあります。
拾ってきたのもの媒介に、さまざまに拡散し収斂する話が、どういうかたちで一冊の本として実を結ぶのか、とても楽しみです。
ところで、遠藤さんはいつも日本中を(ときには外国を)旅しています。
日本中の「銀座」を歩き回り、先週青森にいたと思えば、いまは東京にいて、明日は沖縄にいる。毎月毎日、どこにいるのかわかりません。
ぼくが東京でお目にかかるときは、よく白いスニーカーを履いていらっしゃいます。
おそらくそのスニーカーで日本中を歩き回っているのでしょう。しかしそのわりには、なぜかいつも、スニーカーは新品みたいに真っ白なのです。
興味のままにあっちこっちをどんどん歩いていくけれど、どういうわけか足元は汚れひとつなく白い。その不思議さも、実に遠藤薫という作家らしいような気がするのです。
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