仕事部屋のデスクと反対側の壁には、本棚をずらっと並べています。
そこに写真立てがひとつだけあります。
仕事を始めてプリンタを買ったときに、カラープリントのテストして、前職のときの写真をプリントしてみました。
とある出版賞を受けたときに受賞式の会場で撮ったもので、中央に前職の上司だった会長。その両隣りに、僕と同期。みんなスーツを着て、胸に赤い花の飾りをつけて笑っています。
テストだから何でもよかったんですけど、なんとなくこの写真を選びました。
会長は創業者で、我々とは親子以上に歳が離れています。僕と同期は、大学も同じなら入社した日も同じで、僕のほうが浪人していたので1歳上でしたが、同じ時期に仕事を習い覚えた仲です。
あの当時、この三人で会社の運営的な部分を担っていたのでした。
その写真を、ひとりになってみずき書林を立ち上げ時に、写真立てに入れて背後に置きました。
この写真立ての中身は、そのあとちょこちょこ変わっています。
といっても、いちいち写真を入れ替えるのは面倒なので、フレームの端にひっかけて、どんどん上に写真やポストカードを挟んでいくという、横着な差し替え方です。
2枚目に差し込んだのは、ちくま文庫のジョン・レノンの本『Ai ジョン・レノンが見た日本』から。
ジョンはヨーコに習って、日本語をぼちぼち勉強していて、この本はジョンが日本語練習用に書いたメモとイラストを書籍化したものです。
そのなかに、「SUKOSHI ZUTSU」という画があります。少しずつ。
テキトーに描いた感じですが、なかなか味わい深いイラストです。
どうしてこのページを、本から切り抜いてまで飾ることにしたのかはよく覚えていません。まあ、創業したばかりでいろいろ焦ったり心配したりする局面もありましたから、「少しずつ」ということばが染みたのかもしれません。
3枚目は、戦死した画学生の画を集めた無言館で買ってきたポストカード。
マーシャルで戦死した清水正道という兵士が描いた「婦人像」。
清水正道は長野生まれで27歳で死にました。家族にもだれにも言わないで、そっと出征したとのことです。
画は雨漏りのする蔵のなかで唯一残っていたもので、たしか妹さんが保管していたものだったかと。
彼の画で残っているのはこの一枚だけですが、ほかに原稿用紙が展示されていました。
「芸術と生活を統合する術が見当たらない。それを分けて生きていくだけの意志の強さが自分にはないことを恐れている」といった趣旨のことが書いてあったのを憶えています。
画の巧拙のことはわかりませんが、誰にもいわずに出征して遠い南洋で死んでしまった清水正道が一枚だけ残した画は、戦争とかかわりのない画題なだけに、いっそうかなしい。
このポストカードも、しばらく写真立てに挟んでありました。
で、今日。
前置きが長くなりましたが、utoutoで購入した、なかいかおりさんのポストカードを4枚目として挟みました。
「ことばをあつめて」と題された画です。
余白を活かした、温もりのあるタッチです。
インク壺からのぞいている犬がいいですね。
見渡してみれば、こういう優しくふわりとした雰囲気がなにもない仕事部屋なので、部屋の空気がかすかにやわらぐようです。
この写真立てはなんだ、僕の心象風景なのか(笑)。
だとしたら、なかいさんの画のように、丁寧でおだやかでいられますように。
utoutoでは、そのほかにも本をいろいろ買ってきました。
北村薫『ターン』、田丸雅智『海色の壜』、朝倉かすみ『タイム屋文庫』、ハインライン『夏への扉』などなど。
クロス装の本をモチーフにしたBook Fanも秀逸です。花切れやスピンもちゃんと再現されています。
恵比寿店は19日(月)まで。
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