北村薫に〈時と人シリーズ〉という3部作があります。
『スキップ』(1995年)
『ターン』(1997年)
『リセット』(2001年)
3部作だけど連続ものではなくて、それぞれに独立した作品です。
時間を扱った、いわゆるタイムトラベルものですが、それぞれに趣向が異なり、
『スキップ』は高校生が真ん中の記憶がないまま、気づいたらいきなり40台の教師にジャンプしてしまうという、記憶喪失ものの変形×学園劇。
『ターン』は同じ日を延々と繰り返すループもの×恋愛。
『リセット』は戦時中と戦後をはさんだ転生もの×日記。
といった感じです。
いわゆるSF小説としてみれば、『ターン』はあたまひとつ抜けた完成度です。
街でたったひとりになって同じ孤独な日を繰り返すという物語ですが、人称が凝っていて、たったひとりになのに会話が物語を前に駆動させていきます。どういうこと? と思いながら読み進めていくと、中盤以降でめまぐるしく展開していきます。
最初に読むならこれがお薦め。
『スキップ』はSFではなく、ジュブナイルというか成長物語としてとても優れています。
たとえば大学入学とともに知らない街でひとり暮らしを始めるとか、そういうことはわれわれの普通の人生でもあると思います。
そんなときの、何でもないことが冒険に思えるワクワク感とか。知らない人と知り合っていくときのあやふやな距離感とか。自分は困り果てているのに、周囲ではなんでもない日常が流れていく不安とか。
そういう揺らぎのなかで伸びていく心が気持ちいい小説です。
『リセット』は、神戸の空襲で失った初恋の人と戦後に姿を変えて巡り合う、というSFというよりファンタジーに近い感触の小説。
主筋とはほとんど無関係とすらいえる子どもたちの暮らしや感情が、少女や少年の目線で延々とつづられ、きっと作者は自分の子ども時代とかもっと前の子どもたちのことを、心ゆくまで書きたかったんだろうなと感じます。
こんなふうにそれぞれ違う作品ですが、3作の共通点は、きりっとした女性が主人公である点です。
凛とした、あるいは軽やかな(ときにお気楽な)女性が主人公なのは、たとえば筒井康隆の『時かけ』もそうですね。
男性が主人公のSFは、歴史を変えるために悪戦苦闘したり、利益や復讐のために奮闘したり、わりとハードな展開になることが多いのですが、北村薫の主人公たちは〈何かを変える〉ために時間旅行をするのではなく、時間の果てに〈何かに気づく〉という構造が共通しています。
とても肯定的に時間の流れを受けとめることができる人が描かれていて、だからきっと、読後感がさわやかなのでしょう。
というわけで。
タイムトラベル専門書店utoutoの店主・藤岡みなみさんが、本を紹介するTwitter配信を不定期で行なっています。とてもリラックスして楽しい空気感なので、ぜひ。
また上記書籍も含めて、タイムトラベルものの本がutoutoオンラインショップで買えます。
あわせてぜひ。

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