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執筆者の写真みずき書林

写真家・宇佐美雅浩氏(1)


4月16日。

東京から車で1時間半。

なぜか千葉の山中にいる。

自分がどこにいるのか、僕には正確にはわかっていない。

ジャージを着てスニーカーを履き、軍手をはめてノコギリをもって、苔の生えた木を切り出しては運んでいる。


車を停めたところから10分以上は歩いたところに、谷底のような場所があり、そこに苔むして朽ちた木がたくさん転がっている。粘土質でぬかるんでいる急斜面を降りて、木をノコギリで切り、苔を傷めないように慎重に、斜面を持って上がる。

木は腐りかけているので切るのはそれほど大変ではないし、木材も中がすかすかなので見た目ほど重くはない(ただし一部に例外があり、なかには腹が立つほど重いものもある)。

しかしそれにしても、それを何十本も車まで運ぶのは――つまり腐った木を持って1往復20分程度を何往復もするのは――かなり骨の折れる作業である。

苔を損なわないように1本か2本ずつしか運べないし、乱雑に扱うと木の皮は簡単にはがれてしまう。苔の表面にはナウシカばりの美しくも気味の悪い細かな触手のようなものが生えていて、できればそれもそのまま持ち帰りたい。

運んでいる途中で木の中からムカデが出てきたり、大量のハエが飛び立ったりもする。

この山のなかには猪だっているらしい。


都会暮らしに慣れきった軟弱な編集者が、なぜこんなことをやっているのか。

というと、写真家・宇佐美雅浩氏と知り合ったからである。

検索してみればプロフィールと作品は簡単に出てくるのでここでは詳述しないが、宇佐美さんには全くオリジナルで確かな才能があると思われる。それは作品を観れば一目でわかる。

そして控えめに言って、いささか常軌を逸している(笑)。

最近、僕のまわりにはそういう人が何人かいる。ありがたくも面白いことに。

当人はきわめて温厚で紳士的な人物であるが、その制作手法は、本人も「どうしてこんなことをやっているんだか」と繰り返し口にするように、異常な労力を要するものである。

たった一瞬シャッターをきるために、ときには何年間も準備して、100人以上の人を巻き込み、方々に撮影許可を取り、小道具を制作し、日程調整をする。

Manda-la」シリーズと呼ばれる作品群は、そのように制作されている(これらの写真は、CGは一切使われていない。すべて現場に実際にヒトとモノを集めて撮られている)。


「Manda-la」シリーズに比べれば、今回のプロジェクトは関係する人数や日程的には小さな規模かもしれない。

しかし、自宅を「森」にしてそこで撮影しようというのだから、その労力は膨大である。

(つづく)


Manda-laより、早志百合子 広島

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