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  • 執筆者の写真みずき書林

知らない場所


知らない街の、知らない建物のなかの、ものすごく狭い一室でこれを書いています。


知らない街をひとりで歩くというのは、退屈でもあり、ある意味ではとても楽しいことでもあります。

どこに行って何を見て何を食べても、誰とも話もしないでシェアもできないという面では、退屈です。つまらん。

その反面、誰はばかることなくじっくり考えたり空想したりできるという点では、とても楽しいとも言えます。だいたいが大したことは考えていないのですが、とはいえたまにはひとりだけで、考えごとをしながらそこらじゅうを歩き回るのは、僕の性格には合っているようです。

なじみのない場所だから、ちょっとした非日常感があります。未知の風景に影響されて、思考もあっちにいったりこっちにいったりしながら、普段とはちょっと違う経路をたどるようです。


知らないところに行くと、とりあえずそのあたりを歩いてみることにしています。海外だとうっかり危なっかしいブロックがあったりして、なんとなく歩き回るにしても多少の緊張感がありますが、国内の場合はまずどこに行こうともそういう心配はありません。随意にうろついても差し支えなし。

なので、気まぐれに角を曲がってみたり目についた坂を上がってみたり、わざと道に迷うように歩き回ってみます。同行者に気兼ねなくそういう動きができるのも、ひとり歩きのいいところです(それでもGoogleマップのおかげで、本格的に迷うことはまずありません)。


今日もよく歩きました。

行きは電車に乗って目的地までまっすぐに行きましたが、帰りはいくつか立ち寄りたいところもあって、細かく電車移動を繰り返すよりはと、いっそぶらぶら歩いて寄り道をしながら帰ってきました。


途中で昼時になったので、昼食を食べようと商店街のようなところに入ったのですが、どういうわけだか店が片っ端から閉まっています。一体どうしたんだというくらい、軒並み準備中の札だらけです。

しかたないので、その界隈で唯一開いていた寿司屋に入りました。いかにも町のお寿司屋さんといった風情の、どの町にもかならず一軒はありそうな渋い店です。

がらがらと引戸を開けたとたん、がっくりとうなだれて座敷に座り込むおっさんと、その肩を懸命に揉んでいるおばちゃんが目に飛び込んできました。

ふたりは肩もみを中断して、同時にこっちを見つめます。

他には誰もいませんから、もちろん、このふたりがお店の人です。

そして、おいおい客かよ面倒くせえなという感じで、おっさんがカウンターに入ります。

おばちゃんがお茶を持ってきてくれますが、お品書きの中ほどにある「中にぎり」を頼んだところ、ぼそぼそした声でメニューの一番上の「ランチにぎり」にせよと誘導されました。おそらくそれ以外はネタがないのでしょう。そのわりには、味噌汁は赤だしか白だしが選べるのです。

そうこうしているうちに、店の奥から若い職人がひとりと、給仕のおばあちゃんが二名、新たに登場しました。しかし客は僕だけですから、みんなすることがなくて、一列に並んでただこっちをじっと見ているだけです。誰もひとことも喋りません。宮沢賢治の短編みたいな、なんだかよくわからない空間です。

こういうところのお寿司が美味しいか? いやいやそんなはずはありません。

こういうときふたりだったら、冗談交じりに身の不幸を嘆きあうこともできます。しかしひとりですから、こっちも生真面目な顔をして、黙々とビールなど飲むばかりです。

そういうのも(まあどうせ知らない街の二度と来ない店だし)楽しいっちゃ楽しい。


そんなふうに街をうろうろして、行きたかったところにはあらかた行って、いまはこの狭苦しい部屋に収まっています。

そして眠れないままにどうでもいいテキストをたらたらと書いています。もっと他に書くべきことがあるだろうに。


そろそろ寝ます。

ここで原稿を読み始めるとまた眠れなくなるから、退屈なんだけどなぜか先が気になってしまうという意味ではひとり歩きに似ている『シェルタリング・スカイ』など読みながら。



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