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  • 執筆者の写真みずき書林

近代日本の日記文化と自己表象 研究会



昨日は、近代日本の日記文化と自己表象の研究会に参加してきました。

40人近い出席者がいて、けっこうな盛会でした。


研究報告ひとつめは、小泉紀乃さん「遺書が語ること、遺書を語ること――生者は「巌頭之感」の物語にどう向き合うか」。

例の藤村操の有名な遺書がどういう特徴を持っているか(有名なもの以外に、実は複数の遺書がある)、どういう「読者層」を想定しているかという前半部分も面白かったですが、とりわけ後半が興味深かったです。

叔父である那珂通世や同窓の一校生への影響を追いながら、藤村の死がどのように報道され、時間とともに生じるその変化に着目します。

当初は賛辞をもって受け入れられた藤村の死は、後追い自殺者の発生などとともに嘲笑の対象になっていきます。

この間の、

ショッキングな美談→大量の賛辞→フォロワーの発生→細部の情報が暴かれる→反動化・アンチの言説形成

という世論の急変ぶりは、まさにSNS的というか。

藤村の際にはこの世論変化に一月以上がかかってるわけですが、いまだったら1~2日のうちに以上のプロセスが同時発生的に生じることになるでしょう。


2番目は、魏晨さん「日満綴方使節と『綴方日本』――「満洲国」の子供が〈内地〉をどうみていたのか」。

五族協和の名のもとに、日本の児童たちが満洲を訪れ、あるいは満州国の児童たちが〈内地〉を訪問し、その旅で感じたことを綴り方にアウトプットしていく。この手の児童をつかった国策イベントは、いったいどの程度、主催者・為政者側の意図通りの効果を発揮したのだろうか、と思っていたら、質疑応答でそういう趣旨の質問がなされていました。

また上記に関連して、選抜された優秀な(ある意味では従順な)児童たちは、とはいえ幼いものとして、言ってはいけないことをぽろりしたり、子どもゆえに空気を読まない言葉を残していたりはしないのだろうか、という点も気になりました。

これもまた、フロアからの指摘を受けていましたが。

ちなみに配布資料によると、1940年の第二回使節団は7月15日に日光を見学し、華厳の滝に行っています。

当時の日本側主催者は、藤村操のことをどんなふうに説明したのでしょうか。



で、その後に金曜調査会が登壇。

8人の大所帯で、その画だけでも、すでにおかしい。

途中から、というか事前にレジュメのデータを見たときから、時間が足りなそうなのはわかっていました。


大川さんが日記と出会い、皆と巡り合う話を進めていきます。福江さんの解説と全体のサポートは見事でした。中野さんも、簡潔にして要を得た説明で、役割を果たします。番定さんが堂々とした王者のような語りで解読時の苦労話を話します。その横で、喋ることをどんどん奪われていく柏原さんがまいったなという苦笑をしています。

後ろに座った斉藤さんと今井さんは、あきらかに面白がっています。


で、僕のところにマイクが回ってきたときには、すでに質疑応答に移るべき時間でした(笑)。

まあいいやと20分以上ほとんどひとりで喋り、最後の最後でペース配分を大幅に狂わせたのは、僕の責任です……。

でも、あの場で話したことは、いつかどこかで整理しておきたいと思っていたことでした。

これまで何百冊も本を作ってきたにもかかわらず、この本はなぜ特別に感じられるのか。

この本と映画の内外にあった〈まきこみ/まきこまれていく力〉〈つながっていく力〉は何に由来するのか。

そういったことについて、歴史実践や想像力に絡めて話ができたので、僕は満足(笑)。

ひとりですっきりしちゃって、と今井さんあたりに笑われそうですが。


懇親会で「みなさんが楽しんで日記を読んで、仕事をしたのがよく伝わってきた」「本作りはやっぱりこうじゃなくちゃ」と言っていただけたのが嬉しかったです。



お誘いいただき、時間調整にご配慮をいただいた田中祐介さん、発表メンバーに加えていただいた大川さんはじめ金曜調査会の皆様、ありがとうございました。



発表開始時に書いたメモが空しい。





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