仕事上の必要があってアーサー王関係の本を読んでいます。
アーサー王伝説の魅力はいろいろありますが、一番はやはりキャラクターですね。
男の子は、もともとが騎士だの戦士だの、彼らの友情やらライバル関係やらといった話が大好きです。
そして最近の潮流としては「推し騎士」という考え方があるらしいです。
サブカル系にはあまり詳しくないのですが、とはいえ、自分の好きなキャラを追いかけて深掘りする、という考え方は万国共通・男女問わず、よくわかります。
僕はガウェイン推しです。
おそらくはランスロットと人気を二分しているであろうキャラなので、まあ妥当といえば妥当な嗜好かと思います。
アーサーの側近中の側近であり、やたらに強い。とくに午前中は力3倍というチート的能力もあります。
それでいて、ランスロットのように、登場したら絶対勝つ、という王道の英雄ではないところが危うくて好きです。
そう、ガウェインの魅力は「危うさ」だと思います。
嫉妬もするし、復讐に駆られもする。宮廷のリーダー格でありながら、かたくなで意固地なところもある。
まあ、ランスロットも頭おかしくなったり、アーサーの妻に横恋慕したり、考えてみれば、こいつのどこが理想的な騎士なんだ、という人物ですが、ガウェインの危うさは、もっと現実的でリアルなように思えます。
根がきわめて真面目で、公正で忠実な人物なんだけど、意外と頭に血が上りやすく、そしてしっかりと根に持つタイプ。そのような、人間臭いところが彼の魅力であろうと思っています。
というわけでガウェイン派だった僕ですが、山田南平さんの『金色のマビノギオン』を読んで、まさかのマーリンにやられました。
もちろんガウェインはメインキャラのひとりとして、文句なくかっこいい。
しかし、ここでのマーリンは一味ちがうようです。
僕のマーリンのイメージは長らく、暗い色のローブを着た謎めいたジジイないしおっさん、というものでした。不意に現れては魔法を使ったりよくわからない予言をしたりする、重要なんだけど、不吉な影のような男。
もちろん、最近のサブカル方面では若いマーリンもいろいろいるのは知っていました。でも僕が高校時代にはじめてアーサー王に触れたときには(つまり20年以上前)、そんなイメージの転換はそれほどなかったのではないでしょうか。マーリンといえばタフで健康的で若い騎士たちの対極に位置する、無口で謎めいた中高年というのが、一般的な像だったと思います。
最後に湖の乙女に言い寄ってとんでもなくひどいフラれ方をするのも、色男・伊達男というよりは、それなりの地位も名声もあるのに銀座の美姫に恋をして没落する、哀しい中年サラリーマンみたいなイメージでした。
僕の想像力は長年そのイメージを脱することはなく、もさもさした暗いイメージが根強くありました(もしかしたらドラクエ5の仲間モンスターのあいつも、そのイメージ形成に影響していたかもしれません)。
しかし『金マビ』のマーリンは、赤い目で左頬と両手にタトゥーを入れた、痩身の若い男です。
白い髪は老齢によるものではなく、赤い目とあわせて考えるとアルビノなのかもしれません。
ローブは着ていますが暗い色ではなく、かなり豪華な装飾品もつけています。
そしてニヒルな笑みを浮かべながらも、意外と饒舌です。
つまり、謎めいた不吉・不穏な空気をこれでもかと増幅させながら、暗さを消した、どちらかというと軽薄そうなマーリンになっています。
そしてこの飄々と軽いノリの男が、騎士たちとは一線を画していながらも妙に仲が良いのも、イメージをくつがえして楽しいところです。
つまり、老人ではなく大人。
しかも、けっこう子どもっぽい大人。
アーサーはもちろん、ケイやガウェインが少年ぽい性格なので、マーリンが大人に見えるのですが、それでも彼も十分子どもっぽい。
もちろん、(真を除けば)ただひとり先見ができて、しかも未来を変える力があるので、酷いときにはそうとう酷い。身内を切り離してでもアーサーを守るという意味では、今後出てくるであろう敵対勢力よりもはるかに危険な香りがします。
仲間なのに、身内を危険にさらす可能性が一番高い。
子どもっぽい大人だと感じるゆえんです。
こういうキャラ造形って、もしかしたら普遍的なものかもしれません。
僕が思い浮かべたのは、吉川英治描くところの呉の周瑜、司馬遼太郎の新撰組の土方歳三、ローエングラム朝のオーベルシュタイン(もちろん田中芳樹)……などでした。
彼らの共通点は……
恐ろしく頭の切れるクールな参謀(孫権・近藤・ラインハルト・アーサーの軍師)。
目的のためには手段を選ばないマキャベリスト(温情派の魯粛や諸葛瑾・沖田・キルヒアイス・たまきたちとの対比)。
肉体派・武闘派の主力組とは一線を画するジョーカー的な立ち位置(黄蓋・山南・核攻撃に晒された惑星・〇〇(ネタバレ防止自粛)を駒のように犠牲にする)。
そして常につきまとう破滅と死の匂い(周瑜は憤死・土方は戦死・オーベルシュタインは爆死・マーリンは……?)。
組織の中枢にいる最強の守護者でありながら、組織を壊しかねない一番の危険人物。
部下にいたらアブない。上司にはぜったいしたくない。でもいざとなると有無を言わせない決定的な仕事をしちゃう。
かっこいいですね。
おそらくこのマーリンは、ぼくの固定観念・想像力の限界から一番遠くまでジャンプしていて、しかも普遍的な魅力のある(つまり批評を誘発しやすい)キャラなので、お気に入りなのだと思います。
作家の想像力ってすごいな、と思わせてくれるキャラクターです。
Comentários