top of page
  • 執筆者の写真みずき書林

大川史織さん、第6回山本美香記念国際ジャーナリスト賞奨励賞を受賞!


大川史織さんが、第6回山本美香記念国際ジャーナリスト賞奨励賞を受賞しました!

映画『タリナイ』および書籍『マーシャル、父の戦場』の2作品による受賞です。

心より、おめでとうございます。



山本美香記念国際ジャーナリスト賞の概要は以下のとおり。

(ウェブサイトより抜粋・引用)


「山本美香記念国際ジャーナリスト賞は、2012年8月20日、中東シリアのアレッポにて取材中、銃弾に斃れた山本美香(享年45)のジャーナリスト精神を引き継ぎ、果敢かつ誠実な国際報道につとめた個人に対して贈ろうとするものです。

山本美香のジャーナリスト精神をひとことで言えば、不正義や不条理に対して何がどのように不正義で不条理であるのか、伝聞ではなく自分自身の目と耳でとらえ、世界中に発信しようとするタフな行動力のことであり、不正義や不条理がおこなわれているとすれば、それらの国々や地域において、生死のはざまをそれでも懸命に生きていこうとする人びとの姿を深い共感をもって世界中に伝えようとするヒューマニスティックな視座のことである。この両面を併せ持つ国際報道をおこなった個人の営為に対して、同賞を贈りたいと思います」


選考委員の講評はこちらから。


本賞は原則として、ジャーナリストに贈られる賞です。

ジャーナリスト/ジャーナリスティックとはどういうことでしょうか。

いうまでもなくジャーナリストとは報道者・記者のことを指すことが多く、ジャーナリスティックとは「社会的に新しい問題・事件に敏感なさま」と説明されます。

解釈には幅があると思いますが、基本的には時事性・ニュース性の高い報道や評論を行う人たちとその姿勢を意味すると考えてよいでしょう。


そう考えると、70年以上前に亡くなった男が遺した日記をめぐる映画と本は、時事性や現代性という意味ではジャーナリスティックなものとはいえないかもしれません。

ドキュメンタリー映画という手法そのものはジャーナリスティックな表現にも合致しうると思いますが、戦争で死んだ父親を慰霊する旅のなかで『タリナイ』が追いかけたものは、正確な意味での報道・時事ではありません(では追いかけたものとは何だったのか。それは観た人がそれぞれに考えてみてほしいことです)。

『マーシャル、父の戦場』も――もちろんマーシャル諸島が抱える核や対日・対米関係といった今日的な問題についても触れられているとはいえ――歴史の本であり、歴史実践のための本です。


つまり、大川さんの作品は、即効性・即時性・ニュース性の高いジャーナリスティックなものというよりは、歴史性・作家性・芸術性の高いものだったと思います。

それらの作品がジャーナリズムの賞を得たのは、まさにそれが、良質で丁寧な〈歴史実践〉だったからなのではないでしょうか。


ここでいう〈歴史実践〉を、先述の山本美香賞の趣意文にしたがって換言すれば、「伝聞ではなく自分自身の目と耳でとらえ、世界中に発信しようとするタフな行動力」ということになります。

大川さんにその行動力があったのは確かです。

高校時代にマーシャル諸島に魅せられ、彼らと日本のつながりを伝えるために、大学卒業後に向こうに移住してカメラを回し始めています。


あるいは「生死のはざまをそれでも懸命に生きていこうとする人びとの姿を深い共感をもって世界中に伝えようとする視座」。この点も、佐藤冨五郎という餓死に向かう日本兵の日記を丹念に読み解いて本にしたことから、確かです。


講評で関野吉晴さんがおっしゃっているように、映画は多くの人にとって「詩情豊かなアーティスチックな作品」というふうに観られるものでしょう。

マーシャルの歌に惹かれた若い大川さんが、日記に導かれ、年老いた息子を導くという旅路は、ニュースではなく、物語です。あるいは、映画作りと本作りの軌跡は、知らせるための旅であるのとほぼ同じくらいの重みをもって、自分自身が知ろうとするための旅でもあったはずです。

ただ、〈他者の生と死を想像し、自分の心と言葉で伝える〉というその精神において、山本美香さんとその財団の姿勢に合致したのだと思います。



最後に、

「著作を映画と合わせて奨励賞とすることに賛成した」(川上泰徳氏)

「引き算方式の詩的な映像であり、単体ではジャーナリズムとは呼べないが、……書籍とトータルでみれば、我々の「タリナイ」歴史認識を補完し、アムネジア(忘却)を脱するための共通基盤を提供したという点で意義ある仕事であり」(最相葉月氏)

「この秀逸な本と映画は対になっている」(関野吉晴氏)

という評のとおり、受賞理由が映画と本の2作品に対してであることは、そのふたつを姉妹編と呼び、それぞれに独立していながら相互補完的に考えてきたわれわれ書籍関係者にとって、実に我が意を得たというべき、嬉しいことです。



この度の賞を受けて、あらためて一緒に本作りができたことを誇りに思います。



おめでとうございます


bottom of page