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  • 執筆者の写真みずき書林

藤岡みなみさんの新刊『ふやすミニマリスト』


をご恵投いただきました。


藤岡さんをよく知る人が「みなみの本質は詩人」と言っていました。

藤岡さんのことを考えるたびに、このことばが思い浮かびます。

今回、そこに「みなみはコピーライター」も加えてみたい気持ちになりました。

たとえば、

「暮らしは私と道具のパズルでできている」

「電子レンジのバタフライエフェクト」

「生活自体のうまみを引き出すことで暮らしは味わい深くなる。ちょっぴりの塩で十分なくらいに」

「すべての道具は革命的である」

「スマホは感性の外付けハードディスクだ」

文章のところどころに、こういうフレーズがすっと入ってくる、その楽しさと腑に落ち感。

この本には、こういう印象的なことばが、1~2ページに1回くらいの頻度で出てきます。だから読んでいてとても心地がいい。


また、

「避難している人とか、出先で荷物が少ない人など、持ち物が限られている人への防寒の思いやりは極めて重要だなと思った」

「自分のために防災アイテムを準備する際はもちろん、被災した誰かをサポートする時などにも思い出したい肌感覚だった」

といった視点に垣間見える、いかにも藤岡みなみさんらしい感性も素敵です。

シンプルライフという極私的なチャレンジをしながらも、その視点は道具を介して、内面と同時に外にも向かっていきます。


*


通読して感じるのは、藤岡みなみさんというパーソナリティへの共感です。

多くの人がご存知の通り、藤岡さんはマルチな才能に恵まれていて、面白いことを嗅ぎ当てる嗅覚と、そこに自分なりのスタンスで接近していくバイタリティを持っています。優れたユーモア感覚と言語化能力もあり、おまけに美しい容姿も持ち合わせています。

彼女に憧れている人は多いと思われ、要するに、なに不自由なく生きていけそうに見えるのです。

でも本から立ち上がってくる藤岡さんは、自己肯定力と反省力のバランスが、ほんの少し反省力のほうに振れているようです。

責任感と思いやりが強く、いつもまわりのいろんなことを気にしながら生きているように――要するに、ちょっぴり生きづらそうに――見えるのです。

(慌てて付け加えますが、この生きづらさは、今およそまっとうに暮らしている人なら多かれ少なかれ感じている感覚だと思います。どんなに家族や友人に恵まれていても、ほかに大切で安心できるものを持っていたとしても、いまこの国で生きることのしんどさやうしろめたさを多少なりとも感じるのはまっとうな感覚だと思います。コロナ禍のステイホームの実験生活であったがゆえに、藤岡さんの著書からはその生きづらさがいっそう濃く滲んでいる、ということです)


僕にはこの本は、そんな藤岡さんが、道具を介して自分自身に再接近していく記録であり、そのなかで肯定力を少しずつ回復していく過程のように読めました。


その突き詰めた表現が、

「私は楽しく生きたいと思っている。基本的には生きていることに意味なんてないし、使命もない、生きること自体が目的だ、という考えだ」

という一節です。

楽しく前を向くために一度足元をきちんと見つめようとするその仕草がいかにもこの人らしく、それが多くの人がこの人に惹かれる要因でもあるようです。

この本も、そんな藤岡さんの主著として、長く読まれるものになればいいなと思います。



ミニマリストになるのもいい、道具やモノに囲まれて暮らすのもいい。

わたしは好きなように生きる。みんなはどう?

このチャレンジをしてみて、ひとつすこんと突き抜けた藤岡さんの、そんな楽しそうで優しい声が聞こえてくるようです。


*


ちなみに、僕がもしシンプルライフをするなら、1日目に選ぶのはソファです。

座ってよし、寝てよし。

ソファがあれば、生活の中央管制室がいっちょ上がりです。


2日目はすごく迷った末に、塩かも。

料理の味付けはもちろん、歯磨きにも使える(指で磨くことになるけど、それでも)。


3日目は季節にもよるけど、いまのシーズンであれば、僕のワードローブのなかで一番暖かい、ファー付きのダウンジャケット。北極に行けるくらい暖かい。

これも日常の防寒兼、寝袋代わりにもなりそう。


僕はどちらかというとモノ好きではなく、ミニマリストのほうに魅力を感じるので、いろんな用途に使えそうな――藤岡さんの全身シャンプー的なモノを――まずは優先的に集めそうな気がしています。



本書刊行に合わせた藤岡さんのインスタライブも拝見。

応援の意味で、kindle版を購入しました。

これを書いている12/22夕刻時点で、Amazonランキングで総合402位。「住まい・インテリアのエッセー・随筆」で1位!


全国の書店員さんのみなさま。僕が言うのもおこがましいことですが、巨大サイトのランキングとは無関係に、配架して損なしの本です。

とくに読書と生活が密接な関係であることを願って運営されているインディペンデント系の書店さんとは高相性かと。

この機会にぜひ。




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