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  • 執筆者の写真みずき書林

先の企画のためのノート――諏訪敦さんへの取材

更新日:2019年8月1日


この企画はまだ情報を公開できるほど固まりきっていないので、詳細はおいおいということしますが、昨日はさる画家にインタビューしてきました。

(とはいえすでに画家本人がtweetしているので書いちゃいますが、大川史織さんをインタビュアーとして、諏訪敦さんへの取材でした)


今日は他の要件も済ませながら、録音を聞きながら文字起こしに集中しています。

(今回は文字起こしの業者に出すことはしないで、ぜんぶ自分でデータ化しています。手間はかかりますが、どういうふうにまとめるか考えながら自分で起こしたほうが、原稿化するときの確度が違うと思うので。それに業者に出しても納期までに1週間くらいはかかるので、結局時間も短縮できます)



以下、文字起こししながら考えたことなど。

今後の編集用の個人的なメモ・ノートに近いものとして。



諏訪敦さんの画業については、著名な方ですし、本人のサイトや画集をご覧いただければと思います。

異様なまでに写実的な画ですが、単なる〈そっくり〉〈写真みたい〉というだけのレベルではなく、〈みる〉ということに極めて意識的な、写実でありながらコンセプチュアルな画です。

クラシックな技術をおそろしい精度で極めながら、さらに現代アートの思索や実験性までもが畳み込まれています。

技術の高さに驚嘆するというきわめてわかりやすい鑑賞法の裏に、コンテキストを想像するという――誤解を恐れながらいえば、かなりわかりにくいレイヤーがあります。

画には描かれていない情報や背景が――素人の僕にはほとんど「もったいない」と思えるほどに――多量に潜まされています。


たとえば満洲からの引揚げの途中で亡くなった祖母を描いた『HARBIN 1945 WINTER』は、一度健康な状態の祖母を描ききってから、そこに飢えによる衰えを加え、発疹チフスの症状を加え、ソ連兵から逃れるために髪を切り、つまり、画のなかで祖母を〈殺す〉というプロセスで描かれていきます。

そういったプロセスは完成した画には現れませんが、画を描くことそのものがドキュメンタリーの手法で描かれているとも言えます。


画を描くというのは、そういうふうにして時間や歴史を畳み込む行為でありうるのだと驚くとともに、そこに、健康な兵士であった佐藤冨五郎が2年間かけて衰弱して餓死していくプロセスを判読していった『マーシャル、父の戦場』の大川さんたちの作業過程とも重なるものを感じました。

なお諏訪さんのお祖母様は31歳で、冨五郎さんは39歳で亡くなっています。世代ではなく年齢で考えると、ものすごく近い話なのだと実感されます。


昨日うかがった話の内容はまだ詳しくは書きませんが、そのようなかたちで歴史や人の死(不在)を描こうとするときに、諏訪さんが「自信を持ってはいけない」と考えている理由が語られました。

その部分は、このテキストの肝のひとつになると思います。


そしてこの企画の帰着が文字による本であることから、いくつかの重要なサブテーマが浮かび上がりつつあるようです。

企画の骨子も公開していない現状なのでわかりにくいと思いますし、こういうことを書くのはいささか気が早いかもしれませんが、それは非体験者であるわれわれ(=この本への参加者全員と、大半の読者)にとって、

「えがきえないものを、えがく」

という言葉のまわりを旋回することになりそうです。



準備段階で本や記事を読んでいた時にも感じていたことですが、3時間近い取材のなかで、諏訪さんはいわゆる〈芸術家〉からイメージされる、ある種の臭みや衒いがまるでない方だと感じました。

感覚的・情緒的な発言はほぼまったくなく、ひとつの質問に長い時間をかけながら、丹念にお話しくださいました。

「〈ことばにできないことがある〉と簡単に言わない」

ことに強い意識を持った(この部分ももうひとつの肝になります)、優秀な分析官・報道者・編集者のような語り口が印象的でした。


この企画のスタートに近い段階で、非常に高い自己分析力と言語化能力をもつ諏訪敦さんに取材できたことは、僥倖でした。


そして、まずすべての会話を起こしてしまってから、それを削り込んで一定の文字数に落としていく作業も、もしかしたら諏訪さんの絵画制作のプロセスに似通うところが、部分的にせよあるのかもしれないと感じています。

(実際、文字数ベースでいえば、本に載るのはおそらく全体の30~40%程度だと思われます)


さて。息抜き終わり。

文字起こしに戻ります。


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