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  • 執筆者の写真みずき書林

〈弱国史〉概論―3/4モノ・カネではなくヒト

更新日:2020年1月9日


次に〈政治的・経済的・軍事的な関係以外に注目する〉という視点について。

それぞれの国によって事情はまるで異なると思うので、一概には言えませんが、おそらく〈弱国史観〉では、政治・経済・外交・軍事といった強国間では重要なファクターは、背景を構成する要素にはなりえても、とりあげる主要な対象にはならないのではないかと予感しています。

というのは、日本との関わりが弱い(とされている)国は、多くの場合、辞書的な意味で国力が弱い国でもあるからです。

多くの場合、弱国には旧宗主国がいて、保護領や植民地となった歴史がある場合が多いでしょう(そういう支配国として日本がやってきたという国もたくさんあるでしょう)。あるいは、強国の論理の中で翻弄され、いまなおその渦中で紛争地や係争地となっている場合も大いにありうると思います。 商業的にみれば、たとえばモーリタニアであれば蛸、セントビンセント及びグレナディーン諸島では葛。正直、ビジネスパートナーとしても、最重要ではないかもしれません。 政治家や国際関係のアナリストであれば、〈その他〉のジャンルに入れるような国々です。


でもおそらく、いまはそういう国々との関係にどういう価値があるのかを見詰め直すべきときなのかもしれません。

なぜ「いま」なのかというと、そこにもいくつか強調すべき点があるような気がします。

まず、日本という国の国際的なプレゼンスが下がってきているという点があります。日本はもはや強国ではなくなりつつあります。 経済的・政治的なかつての地位を失い、辞書的な意味での強国ではなくなりつつあるいま、我々はそれに代わる価値を自らの中に見出せるのか。経済的な豊かさを失ったとしても、それでも仲良くしてくれる仲間を世界の中に持っているのか。

同時にそれと関連して、日本人が国を愛する方法が硬直化しつつあるとも感じています。 自分を肯定するために他者を否定しなければならないのは、不幸で浅ましい態度です。 近すぎる隣人たちとの関係が複雑化しすぎているなら、彼らと対話するヒントを得るためにも、これまで対話してこなかった〈弱国〉同士、互いの話に耳を傾けてみるといいのではないでしょうか。



直感ですが、おそらくそこには、物質的ではない豊かさがあります。 ごく簡単に言ってしまえば、その豊かさとは、人的交流ということになると思います。 モノやカネの動きは、いわゆる〈強国〉の生み出すそれとは比べようもないでしょう。 しかし、だからこそヒトが重んじられます。いまはアフガニスタンの中村さんが最適の例かもしれません。 どうやら「弱国史」が中心的に研究し取り上げるべきは、国だけではなく人だということになりそうです。


重ねて強調しておきますが、ここでいう〈弱国〉とは、単に弱小国であるという意味ではありません。我々との関係性が稀薄だとされている、つながりが弱いとされている国、という意味です。 だからこそ、そうではないことを知っている人びとの語りがとても重要になってきます。

「日本との関係が弱い(とされている)」と定義していることに再び注目ください。 (とされている)というのがとても大事です。本当はそうではないのです。 日本とその国は本当はタイトな結びつきがあり、太くはないけれど確かな人的交流があるのです。見方を変えれば、実はわれわれは弱国同士ではないのです。

「弱国史」は逆説的なジャンルであると繰り返しておきます。それを考えてみることで、実際には「弱国」ではないことが判明します。 多くの人は弱いと思っていますが、実は強い。多くの人はそのことを知りませんが、知っている人は確かにいます。

だから「弱国史」では、まずそれを知っている人に登場してもらう必要があります。


(つづく)






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